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 怪盗ビギナーは多額の懸賞金と共に、 すぐさま全国に指名手配されることとなる。 しかし、一向に彼の居場所は探り当てられなかった。 焦燥感がピークに達した3日後、切望していた手紙が対策本部へ届いた。 『12月25日午前3時、吸血鬼の秘本をとうとう手に入れた。  ダグ警部を始め、警察の方々を欺くのは非常に緊張した。  次は紺碧(こんぺき)の十字架をいただきに参る。どうぞ入念なご準備を。          怪盗プロフェッショナル』 「頑張ったな……」 ダグ警部の口から無意識に労いの一言が漏れた。 ビギナーのイメージは創られたものだと分かっていると言うのに。 ふと我に返った彼は大慌てで首を横に振る。 「いや、私は何ふざけたことを口走っているんだ」 屈辱感のままに反省文を握り潰す警部。 長らく息を吐くと、しかめっ面で部下たちの方を振り返った。 「おい、皆。呑みに行くぞ。……ったく、やってられっか。朝まで作戦会議だ!」 小刻みに揺れる彼の手には報酬の10万ドルが握られていた。 怪盗ビギナーの掌はダグ警部が想像する以上に、 踊るのに十分な大きさだったようである。
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