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 ダグ警部は先の見えない廊下を恐る恐る進んでいく。 既に怪盗ビギナー一団が到着したのか、 突き当たりにある窓は全開で、夜風が激しく吹き込んでいた。 「怪盗ビギナー! 吸血鬼の秘本を持ってきてやったぞ!」 警部の背後に突如、気配がよぎる。 それは小箱の蓋を目にも留まらぬ速さで開き、中身を瞬時に確認した。 「よろしい。取引成立だ。報酬については追って連絡する」 ギリギリと歯を食い縛る警部。 彼は眼前の犯人を捕まえられないもどかしさを我慢するのに必死だった。 「それでは失礼しますよぉ……」 この声にはどことなく聞き覚えがあったものの、 警部は平常心でない故の気の迷いだとすぐに結論づけた。 吸血鬼の秘本が外へ運び出される一部始終を見届け、無線を繋ぐ。 「ルイディ、任務は遂行した。そちらの状況はどうだ?」 雑音に混じって聞こえたのは、慌てふためく部下の息遣いだった。 「……警部! そちらのビギナーを直ちに捕まえてください!」 「なぜルイディの無線機をお前が……」 状況を一瞬で理解すると、警部の血の気はたちまち引いていった。 窓辺に立つビギナーが、吸血鬼の秘本を小箱から取り出し、満月に重ねる。 月明かりの影に覆われた背が得意げににやついた。 「怪盗ビギナー初めてのお宝です。綺麗ですねぇ。  小箱には本物を仕込ませていただきました」 「おのれ……」 「私を信じ込ませる環境を作るのには、だいぶ時間をかけてしまいましたがねぇ。  ふふっ、次からは怪盗プロフェッショナルとでも名乗りましょうかぁ」 「待てー!」 まっしぐらに駆け出した警部の指先は空を掴んだ。 ビギナーはパラグライダーに飛び乗り、摩天楼の上空を優雅に運ばれる。 「素性の知れない私立探偵など雇うべきではないですよぉ……」 皮肉な助言は気流と一体化し、 これでもかと後悔の念を撒き散らしていくのだった。
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