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その手紙は突然舞い込んできた。
『11月23日午前3時、吸血鬼の秘本をいただこうとしたものの、
警備の堅さに恐れをなして突入すらできなかった。
次こそ必ず成功させる。
怪盗ビギナー』
差出人の名前まで目を通すや否や、
恰幅のよいダグ警部の口髭が山なりに移ろう。
「またあいつからだ。これで12通目。余程諦めが悪いらしい。
まだ姿さえ見たことないんだぜ」
手紙を受け取り、同じように視線でなぞるのは探偵のルイディ。
半年前にジムでダグ警部と知り合い、今では捜査に手を貸す仲である。
彼は常に薄笑いを浮かべ、語尾を大袈裟に伸ばす癖があった。
読み終えた手紙を封筒にしまうと、丸椅子の上で胡坐の姿勢を改める。
「頑張り屋さんですねぇ。しばらく見守ってあげましょうかぁ」
吸血鬼の秘本に怪盗ビギナーが目をつけたのはおよそ3ヶ月前。
この財宝は推定400万ドルの価値があると謳われており、
配属される警備員の人数も並大抵でない。
ビギナーの腕前はその名に違わず未熟で、
これまでにも大量の反省文が対策本部に送られていた。
「あくまで怪盗なら反省文より予告状を出した方が格好良いんですけどねぇ。
できることなら教えてあげたいです」
ルイディは自分が言ったことのくだらなさに鼻で笑う。
吸血鬼の秘本がすぐ近くに眠っているにもかかわらず、
現場の雰囲気は確実に緩んでいた。
ちょうど1ヶ月後、彼らのもとへ一通の新たな手紙が届く。
差出人は言わずと知れている。用件欄には『予告状』とだけ記されていた。
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