食べないとは言ってない

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 ぱっちりと大きな真南の目が、剣呑に細められた。 「提案? 俺に提案って、何?」  が、なぜかソファーから滑るように床に移動し、そこでぴしっと正座した啓史がガチの真顔を見せてきたから、まずは彼の提案を聞くことを真南は優先する。多少の怪しい素振りがあっても、啓史の為人(ひととなり)と自分への愛情を真南は欠片も疑っていないのだ。 「期間限定でいいんだ。グランドメニューに支障が無い程度の数でいいから、キューブ型のシュークリームを店に置いてもらえないかな? 実は、そのために俺の親父が懇意にしてる鉄工所で立方体のケーキ型を特注で作ってもらってきたんだよ。ほら、これだ」  見てくれ、と弾んだ恋人の口調に、金属の型がぶつかるカチャカチャッという甲高い音が重なる。  今日、何回目の真南が目を見開いた瞬間だろうか。  え? 待って。特注のケーキ型、いったい幾つ作ったんだ?  マチの広い紙袋から、微妙にサイズを変えて作られた立方体のケーキ型がどんどん出てくる。いろんなサイズがあるのは、新作スイーツのための試作に、真南がいつも膨大な時間をかけることを啓史がちゃんとわかっているからだ。 「このケーキ型の加工、とても良い仕事だね。腕の良い職人さんが手がけてくれたってわかるよ。すごく使いやすそうだ。こんなにたくさん特注してくれて、ありがとう。喜んで、次の新作スイーツにキューブ型シューを加えさせてもらうよ」  パティスリー『ラ・ベルメール』のオーナーパティシエ、幸村真南。恋人、千葉啓史からの記念日プレゼントを笑って受け取った。  そう、記念日。真南の推察は合ってるはず。このたくさんのケーキ型は、記念日プレゼントだ。  高校卒業後、しばらく疎遠になっていた彼らが偶然に再会することができた日が、もうすぐやってくる。真南が忘れていないのだから、啓史もその日を覚えているに決まっている。そこも疑っていない。

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