案件2.おらは人気者な戦士

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案件2.おらは人気者な戦士

「なんともまあ、殺風景な世界だな、ここは」  街や村らしきものは点在しているが、ほぼ広い海原か平原で、奇妙に細長い山がたくさん地面から生えている。恐らくダメージを受け、山々を砕いてぶっ飛んで行く演出のためなのだろう、そして自分もそうなるのだろうと火砕(かさい)は思った。新たな派遣先に来たときの直感はだいたい正しいのである。  火砕は案件内容に記載がある座標へ飛び去った。まずはクライアントの手下と打ち合わせが必要だ。自分がどこで、誰を待ち構えるのか要望を聞き出さなければならない。適切な場所とタイミングで介入し、勇者や戦士たちに不自然さを感じさせずに遭遇(そうぐう)する。敵であれ味方であれ、関わる者全てに敬意を払うのが火砕の流儀だ。  前回のようにクライアントまで巻き込むことは、それこそ二度三度のことではなかったので、自戒する意味でもあったが。  最後にクライアントの名前を確認する。 「ピッチリ大魔王って言うのか。ぴっちりしたボディスーツを着るハメになるのかもな」  火砕の予想通り、後に緑色をしたピチピチのスーツを着ることになる。  その後、クライアントの手下とコンタクトが取れ、入念に打ち合わせを行う。どんな手筈で手下が事件を起こし、どこで、いつ、どのタイミングで介入すべきかを頭に叩き込んだ。その上で火砕はクライアントの手下に言った。 「諸々よろしければこれで打ち合わせを終わりたいと思います。ここで会ったことはくれぐれもご内密にお願いいたします」  そう言い残すと、火砕は自身の戦場となる座標へと飛んで行き、その場所の検分を行い始めた。今回の仕事は殲滅(せんめつ)ではなく、あくまでも倒される魔王の代役だ。そのため最強術式を使う必要がない。小細工として、後世に魔王の種を残すという演出を伴って果てるのが火砕の役目だった。  情報によると、魔王を襲撃する戦士たちは手荒い打撃技や遠隔攻撃を放ち、空中を自在に飛び回るらしい。その猛攻に耐え抜く強靭(きょうじん)な精神が求められるな、そして自分が最も適役だと、火砕は自身のモチベーションを高めて行く。実際そうでもしなければこんな稼業は続けていられない。  場所の大まかな把握ができたので、火砕は急にヒマを持て余してしまった。そこで携帯端末を取り出し、動画を選び始める。少女がコンパクトを開き、素早く変わり身を果たすというアニメ動画を見て、その少女が術を行使する際に詠唱する呪文をマネして見た。 「テックマックマヤコン、ラ~ミパスラ~ミパスルルルルル~。なんだこりゃ、ルルイエの誰かを呼びつける呪文と似てなくもないが……まあ、気にしないで覚えておこう」  とは言え今回は最強術式の出番がないので、それを披露されるのはまた別の機会となるだろう。  火砕はこの世界にあると言う七個の球のことが気になり始めていた。下手(へた)なタイミングで集められると、戦士たちのワイルドカードとなり得る。そんな不確定な要素はできるだけ排除して置きたいと火砕は考えた。 「俺がひとつ持っとけばいいか? いやでも連中が六個集めてたらマズいことになるな……衛星軌道上で周回させとくか」  火砕は球を探査して見た。近くにいくつかあったので、手近なひとつをお取り寄せの術で手元に引き寄せる。余談だが、この術は動画で観た短編アニメで、タヌキのようなネコ型使役ロボットが使っていた便利アイテムから着想を得て、火砕が構築したオリジナルの術式だ。人間のことをバカにしつつも、よいものであれば人間の文化でも積極的に取り入れる、これも自分ならではのスマートなスタイルだ、と火砕は本気で思い込んでいた。  手に取った球を上空に向かって放り投げる。音速を超えて飛んで行った球はキラリと光を残して成層圏のその向こう側に浮かぶ物体となった。  後は戦士を待つだけとなり、いよいよ火砕にはすることがなくなった。とはいっても街を散策したり、景勝地を巡ったりなど観光にうつつを抜かし、人の目につく訳にも行かない。  ふと、辛く苦しい、だが今でもその(おぞ)ましさに身震いする師匠との出会い、特訓に次ぐ特訓の日々、そして別離の日を思い出していた。
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