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アームレスリングの世界ランキング1位から3位の屈強な男たちが、空のペットボトルを一本ずつ持ちながら入場した。
スタジアムに集まった観衆の盛り上がりがピークに達する。
歓声の半分は人類からワーワーと発せられ、もう半分はペットボトルたちからパキッパキッと鳴らされた。
人類の運命を担う、とあるアームレスリングの国際団体とペットボトルが共同で開催することとなった、ツブし合いが始まろうとしていた。
戦いを挑んできたのはペットボトル側だ。
頼んでもいないのに生み出され、液体をたっぷり注がれ、飲まれて、用が済んだら捨てられる。
中にはリサイクルされて生まれ変わるチャンスを掴める仲間もいるが、多くの同胞が道端に捨てられたり、火あぶりにされてしまうのだ。
俺たちペットボトルにも、自由と権利をよこせ!
お前ら人類が地球の覇者だと決めつけるな!
そう、俺たちペットボトルは革命を起こすんだ。
一番勝ち目がある戦いを選んでな。
人類とペットボトルが、お互いの通訳を介して交渉した結果、『音』でケリをつけることに決まった。
先に二勝した方が勝ちの、三本勝負だ。
音を鳴らさずに潰せたら人類側が一勝、人類の手が触れた瞬間から潰し終わるまでに音が鳴ったらペットボトル側が一勝というルールだ。
ジャッジは、精密な音の測定器を使って行われることとなった。
―*―*―*―*―
場所は、環境問題に取り組む会社の会議室。
「という、CM用のストーリーを途中までなんですが、考えたんですけど、どうでしょう?」
若手社員が緊張しながら発言した。
上司が「長いし、世界観に無理があるな」と苦笑いする。
また俺の企画が潰されてしまったな、と若手社員は敗北感を味わった。
肩を落としながら、水を少し口に含んだ若手社員の手に、悔しさのあまり力が入った。
手の中のペットボトルから、パキッパキッと大きな音が鳴る。
若手社員の敗北感が倍になった。
(了)
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