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「下界に降りる際、1つだけ好きな宝貝をもって降りることができマス」
ガイドのロボットがそういってオーバーなポーズをとった。
見かけは案山子のようだが中々愛嬌がある。さすがは天界のナビゲーターといったところか。
「宝貝? 魔道具とは違って? 」
「勿論、魔道具でも構いマセンが魔道具は下界にも存在しマス。天界ほど質の良いものはないデショウが代用はききマス。その点宝貝は下界には存在しマセン」
確か魔道具は魔力を増幅させて引き出す増幅装置のようなもの。宝貝は魔力を別の何かに転換するものだったはずだ。魔道具なら少ない魔力でも増幅させることができるが宝貝はある程度魔力がないと発動すらさせられない。
「俺は宝貝なんて使ったことないぞ? 」
「不出来なのデスね? 」
ほっとけ…
「でも大丈夫デス。下界に落とされる者は出来損ないか犯罪者デス。貴方は犯罪者には見えませんから不出来なのは当たり前デス」
「もしかして喧嘩うってるのか? 」
不出来から出来損ないにランクアップしやがったぞ?
「めっそうもありません」
ロボットは申し訳なさそうに頭を下げる。
「事実を言っているだけデス」
「やっぱり喧嘩うってるだろ? 」
すごんで見せるがロボットはインプットされている通りコミカルに動いて謝るだけなので空しくなった。
まぁ事実は事実なのだ。天界は魔力の強い者だけが住むことを許されている。魔力の弱いものは下界に落とされる。何故そんなことをするかというと人と神との決定的な違いは魔力のあるなしによるからだ。かつて双子の巨神はぞれぞれの眷属として人と神を作った。しかしちょっとした手違いで2つは混ざってしまいそれを見分ける手段が魔力しかなくなってしまった。だから魔力量が基準値を満たせばその者は神として天界に住まい、基準値を満たせなければ人間として下界に住まう。そのように分けられた。しかし中には魔力量の低い神、魔力の高い人間も生まれてくるわけでそういった者達は天界下界で定期的にトレードされている。
「もういいよ。俺は宝貝ではなく魔道具を持っていく。俺はどうせ出来損ないだからな」
「ですが貴方は空を飛べるのデスか? 」
「空? 飛べたら下界に落とされたりしないよ」
自力飛翔が可能な魔力量は1000からと言われている。残念ながら俺の魔力量は1000に満たない。
「だったら空を飛べる宝貝をもっていかないと死んでしまいマス」
「は…? 」
・・・
魔力が基準値に満たない者は下界に落とされる。それは知っていた。しかしまさかそれが文字通り落されるとは。
「聞いてなかったぞ」
俺は足元に広がる下界を見ながら足を震わせた。
まさかガラスでできているわけではないだろうが地べたは透明で下界の様子を見渡すことができた。下には青々とした自然、森が広がっている。ここに突き落とされたら俺は間違いなく死ぬだろう。俺は右手の略式宝貝「放気」を思わず両手で握りしめた。
宝貝は基本的には魔力がないと作動しないが略式宝貝はその限りではない。魔力の全くないものでも内蔵された魔力池回路によって魔力が尽きるまで使用可能だった。魔道具は全く魔力なしでは使えないので全く魔力のない者でも使えるという点では略式宝貝の方が人間向きといえるかもしれなかった。しかしそんな略式宝貝には勿論欠点がある。蓄えられた魔力が無くなれば使えないし本物の宝貝や魔道具と比べたらできることが限定的だった。例えば今俺が持つ「放気」は空を飛ぶ以外の用途はない。凡庸性なら魔道具の方がはるかに上だ。しかし俺は空を飛べない以上、略式宝貝を持っていくしか選択肢はなかった。
「ふふふ…魔力量850。まさかの3桁。さすが下界に落とされる奴は違うわね」
「おいおいユーリ。笑ったら可哀そうじゃあないか」
先に来ていた男女二人が俺を見て笑っている。
女の方が持っているのは宝貝「殻軽写眼」確か必要魔力は1800から。相手の様々な能力を覗き見ることができるという宝貝だったはずだ。1800「から」というのは魔力を上乗せすることによって見えるは範囲が広がっていくからだ。俺の能力を覗き見ていることから魔力量は1800以上はあるらしい。下界に一つだけ持っていく宝貝にしては慎ましい能力だが、そこは彼氏の方がカバーするということなのかもしれない。ちなみに自分の魔力量を超える者の能力は見ることができないという欠点も持つが下界の人間相手なら見れぬ相手はいないだろう。
「でも3桁よ3桁。本当にただの人間レベルだわ」
「と言っても850あるんだろう? 確か下界の勇者や賢者がそのくらいだったはずさ。850の彼でも下界に降りれば勇者ってわけだ」
「850で勇者ですって? それじゃあ私たちが下界に行ったらどうなってしまうのかしら? 」
「そんなの決まってるだろう…」
男はそういうとこれみよがしに自分の宝貝をみせつける。あれは確か宝貝「刃鐘雷杖」。神罰の雷で人間を焼き払う宝貝で必要魔力は15000。対人特化の宝貝だった。
「神だよ」
「ああん、フーミン素敵! 」
男は自分に酔ったように言うと女がしなだれかかる。
どうやらこいつらはバカップルみたいだ。馬鹿にされても突き抜けてると怒る気が失せる。うざいことはうざいけど。
「何が神だよ自分達だって天界から落とされるくせに」
俺はせめてもの反抗にと呟いてその場を離れる。幸か不幸かその声はバカップルには聞こえなかったらしく彼らはまた新たな来訪者に殻軽写眼を向けている。
天界の民の魔力量の中央値は8万ほどになる。平均値は30万近くになるがそれは一部の化け物が平均値を引き上げているからでそういうやつこそが本来の神ということになるのだろう。8万付近の連中は多かれ少なかれ人と混ざってしまっている。ハーフだった。過去にハーフを神として天界に住まわせるかどうかでひと悶着あったらしく今でもその火種は残っている。一応はラインを設けてそこで足切りするということになってはいるが認めない者も少なからずいた。そういう連中は過激派として嫌われてはいるけれども。
下界に落とされるかどうかの魔力ラインは1万となっている。1万を超えてくると結構強力な宝貝を使えるようになるし下界の人間たちに配慮しているのだろう。しかしそれならばバカップルが必要魔力量15000必要な刃鐘雷杖を持っているのは少し引っかかった。魔力量15000必要な刃鐘雷杖を発動できるなら下界に落とされなくてもすんだはずだ。十分魔力があるのに下界に落とされるなら犯罪者ということになるが確かにカップルは性格は悪そうだが他人をおちょくったりしたぐらいで下界には落されはしない。大量殺人とかそれに類する犯罪を行い不死の身体を持っていた場合に魔力を封じられ下界に落とされる。下界には神殺しの魔物がいるからそいつらに食わせるのだ。
「こそこそ笑ってんじゃねーよ! 」
俺の思考から現実に引き戻したのはそんな男の声だった。見れば先ほどのカップルにさらにガラの悪そうな男にからまれている。モヒカンの反り上げた神にトゲトゲのついた肩パット。どこぞの世紀末から抜け出たような恰好だ。背中にはペガサスの詩集が描かれた革ジャンを着ている。
「雑魚が俺を笑うんじゃねー! 」
先ほどの俺と同じように殻軽写眼で魔力量を測られ笑いものにされたらしい。魔力の低い俺達は笑われるのには慣れているはずだ。そこまで怒る必要もないのにと思いつつも、いい気味だという気持ちも同時にわいてきた。嫌なことを擦れば自分に返ってくる。因果応報というやつだ。
「はぁ…? 」
カップルは怯みつつ男を見るが謝る気などは毛頭ないらしかった。再度、殻軽写眼を確認すると馬鹿にしたようにせせら笑う。
「粋がるなよ魔力量4000未満が。俺は9844なんだよ。もう少しで1万だったんだ。本来ならこんなところにいる存在じゃない」
魔力量9844ということはやはり15000未満ということになる。ということは刃鐘雷杖は使えないはずだ。なのに下界に持っていける唯一の宝貝に使えない宝貝を持ち出してどうする気なんだろう? 一触即発のカップル達をよそに、他人ごとの俺はのんきにそんなことを考えていた。
「うっせんだよ! 」
モヒカンはカップルの男をぶん殴った。
「な、何を…」
狼狽する男。それはそうだ。天界で暴力は許されない。それこそ下界に落とされるぞと脅されるくらいだ。もう下界に落とされることが決まっているモヒカンにはそんな脅し文句は効かないだろうが。
「魔力量なんて関係ねぇ。俺は特別な存在だ。お前らは雑魚だ。雑魚が俺をなめるんじゃねぇ!」
「先に突っかかってきたのはあんたじゃない! 」
「うっせんだよババア! 」
そして女にも蹴りを入れた。あれは噂に聞くケンカキックというやつだ。女の人にやると危険なので注意しよう。
止めに行くべきか? でもあのカップル連中には嫌な思いさせられたしなぁ…
俺は迷ったが誰かに止めてもらおうにも周りには誰もいなかった。今この部屋にいるのはカップルと俺とモヒカンの4人だけだった。俺が止めなければカップルは一方的に殴られることになるだろう。ということで俺はしぶしぶ止めに行くことにした。俺は魔力量が少ない。だが魔力量が少ないからと言ってそれが全てではない。体を鍛えれば身体能力は手に入れることができる。身体能力があれば魔力量で劣っていても対等に渡り合える、かもしれない。ちょうどあのモヒカンがカップルにしているように。まぁ魔力で身体能力も向上させられるから限界はあるんだけど。
「ちょっと君やめない…」
「バベルの雷! 」
閃光。そして落雷。
俺が今止めようとしていたモヒカンに向かって雷が落ちた。プスプスと黒焦げになり崩れ落ちるモヒカン。一応まだ息はあるみたいだが重傷といっていいだろう。
これは刃鐘雷杖による攻撃か?
カップルを見たがカップルもビビっているようだ。刃鐘雷杖による攻撃ではない。では誰が?
「迷惑かけんじゃないわよテンマ。下界でもそうやってつっかかるつもり? 懲りない男ね」
声のする方を見ればそこに女がいた。黒ずくめの帽子にマント。魔女のコスプレに身を包んでいる。
テンマとはモヒカンの名前らしい。モヒカンと女は知り合いのようだった。
しかしあの女は魔道具も宝貝もなしに雷を放ったようだ。しかもあの威力。
「下界の呪文ですか。神が使うようなものじゃありませんね」
女の後ろから続いて別の男が現れる。一緒に来たから知り合いなのかと思ったがモヒカンとは違いこっちとは初対面らしい。女が怪訝な視線を男に送る。
「誰? いえ…その宝貝」
女が目を付けたのは男の宝貝だった。手錠のように両腕にはめられているそれは「封錠壱百」魔力を100分の1まで引き下げる宝貝だった。今から下界に落とされるというものがこんな風に拘束されているということは…
「犯罪者? 」
・・・
「下界の人間は天界の民より魔力量は少ないですがそれゆえに少ない魔力量で効果的に力を出せるように特別な技術を習得しているのです。さっき彼女が使って見せたのそれでしょう」
「まぁね。神がそんな技使うべきじゃないってパパもママも言っていたけどそうせ下界に落とされるんだもの。身に着けない手はないわ」
「でもどうやって? 」
俺は女、ティリカというらしいに聞いた。下界の魔法なんて劣等なものとして天界では見下されている。それもそのはず下界の魔法は悪魔だったり精霊からだったり力を借りるのだがそれらは本来天界の民より魔力量は下だ。天界の民はむしろ魔力を貸す側の存在なのだ。
「下界から天界に連れてこられた友達がいてね」
魔力量が低い天界の民が下界に落とされるように魔力量の高い人間が天界に連れてこられることもある。ティリカの友人はその人間だったようだった。
「魔力に目覚めたのが成人してからだったらしくって魔法の知識を詳しく持っていたの」
魔力は子供のころは制御できないから大きな力をもっていれば赤子のうちにわかる。物心つく前に天界に連れていかれるのが常だが彼女の友人というのは例外だったらしかった。
「もしかしてそれが彼なのですか? 」
そういって拘束具の男…デミアンがテンマを指さした。
「俺はちげーよ。あんな雑魚と一緒にすんな」
ティリカに傷を癒してもらったテンマが不機嫌そうに言った。魔法で黒焦げにされた割にティリカに対して恐怖もしていなければ怒ってもいない。どうやらあの過激な魔法攻撃も彼らにとってはコミュニケーションの一つらしかった。
「テンマは私と一緒に魔法を習っていたの」
ティリカは肩をすくめて言った。
「もっともテンマはサラサにつっかかるばかりで真面に学ぼうとはしなかったけどね」
どうやらサラサというのが友人の名前らしい。名前からすると女だろうか?
「俺は特別な存在なんだ。学ぶことなんかねぇんだよ」
あくまでつっぱねるテンマにティリカは苦笑いを浮かべる。
「こんなんでも一緒に下界に落ちるのは分かっていたからね。仲良くするしかなかったの。よかったわ貴方は真面そうで」
そういってティリカは俺に笑いかけた。
「えっと…」
俺はそんな彼女に気後れしてしまう。
彼女の魔力量は2200程度だという。天界落ちの中でも低い方だ。だがそれでも俺の魔力はそれよりもさらにけた外れに低い。なにせ三桁の850だ。生まれつき魔力が低いのは俺にとってある種のコンプレックスではあったがあまりに弱すぎたためか他のみんなには一種の保護対象になってチヤホヤされていたのも事実だった。その点ここにいる彼らは俺にとって初めて出会った対等に近い者達であり、しかし差がないからこそ魔力量の差を実感させられてしまう存在でもあった。
「何が真面な相手だ」
のんびりと会話する俺たちにカップルの男がいらだたしげに言った。
「犯罪者が真面な相手かよ! なんでそんな奴と仲良く会話なんかしてるんだ? 」
「そうよ。抑えられてるけどそいつの魔力量は100万を超えている。そんな奴が下界に落とされるわけないわ。正真正銘の犯罪者よ」
カップルの女は殻軽写眼で能力の覗き見しながら言った。
なるほど。
俺はその一言でこのカップルの秘密をなんとなく理解した。殻軽写眼は自分より弱い相手の能力しか見れない。そしてデミアンの魔力量は100万以上。100分の1になっても1万以上だ。そんなデミアンの能力を見れるということは女の魔力量は1万以上ということになるが1万以上あれば下界には落されない。女の魔力量は1万には満たないはずだ。そしてヒントがもう一つ刃鐘雷杖の必要魔力が15000であること。これを合わせれば答えはおのずと見えてくる。つまりこのカップルはお互いの魔力値を合わせることができるのだろう。合わせて15000以上の魔力値をだせるから刃鐘雷杖を選んだしデミアンの能力も覗き見ることができたのだ。魔力を合わせるのは中々レアな能力だから魔力が低くても自信に満ちているのはそのせいなのかもしれない。
「先ほども言った通り私は犯罪者ではありません。下界に降りてみたくて魔力に制限をかけているだけです」
下界に落とされる犯罪者は不死で神殺しの魔獣に食われるために下界に落とされる。だがそれは必ずしも犯罪者でなくてもいいらしい。死を望む神は能力を制限され下界に落とされる。デミアンは死を望んでいた。
デミアンの話では1度に下界に落とされる人数は7人とのことだった。最後の1人が来るまで話でもしようということになったのだが、カップルは御不満らしかった。
「今回下界に落とされるものに犯罪者はいませんでしたからね。私は変わりの竜の餌です」
下界に落ちる際に餌が選ばれるのは下界へのゲートを開くと龍がやってくるかららしかった。龍は力の強い者を捕食しようと狙う。ただ落とされたのではすぐに食われてしまう。だから囮として犯罪者を使う。
「自分が竜に食われている間に俺達が下界に降りるっていうんだろう? そんな話信用できるか。自分の命を何だと思っている? 」
「そうだわ。それに天界の使いは魔力を持つ人間を攫ってくるじゃないの。あいつらは龍より強いんだからあいつらに竜を始末させればいいのよ」
「残念ながら、天界の使いも龍より強いわけじゃないよ。本物の龍にはね」
それに答えたのは7人目だった。
「サラサ…?」
彼女を見た途端ティリカとテンマが目を丸くする。彼らに下界の魔法を教えたという下界から連れてこられたという人間。どうやら彼女が7人目のようだった。彼女の腕にもデミアンと同じ封錠壱百がはめられていた。
・・・
かつてこの世界には王という存在がいました。王しか存在しませんでした。王は完全な存在でした。しかしある時、王は影を創り出しました。影は王に足りない物があると説き王に両親をそして兄弟姉妹を創らせました。そして最後に双子の子供を創らせました。そうすることにより王はより完全になると同時に完全な存在ではなくなりました。完全な存在でなくなった王は影によって殺され影が代わりに王にならんと欲しました。
「この時の双子が天界で言うところの双子の巨神のことね。下界では王の血族と言われていたけど」
サラサの話にはどこか聞き覚えがあった。
「次界の巨神の話か? 」
天界にも似たような話がある。王は天界においては次界の巨神と言われている。
デミアンが頷く。
「創世の巨神に成り代わろうとした影ですがそのたくらみは他の巨神達に悟られ影は下界に逃げたとされていますね」
「そう、この時下界に降りた7名が王の影、父、母、兄、弟、姉、妹の7名。双子の片割れは下界を想像したため最初から下界におり、もう一方は天界に留まったとされている。そして天界の者が下界に落とされる時、疑似的にこれを再現するのが決まりとされている」
サラサの話では王の血族の双子、もしくは双子の巨神は今でも影を追っており疑似的に同じ状況を作り出すことによって影を見つけようとしているのだという。
「ついでに付け加えると下界の神話では下界に落ちてきた王の血族は6名。その中には影はいなかったとされている。これは影は下界に落ちる際6名の王の血族のいずれかに成り代わったからだと推測されている」
「なるほど。それで天界から下界に落とす7名のうち1名を龍に食わせるわけですか。それで6名になるから…」
デミアンが何やら納得して頷く。龍もまた元々は王の父の眷属であるという。ゆえに本物の龍には神をも殺す力がある。
でもこれが王の影を探す儀式なら影は王の血族に成り代わっているのだから影の役割である犯罪者は逃げ延びるってことになるのでは?
「つまり、お前は素直に龍に食われることはねぇってわけだな」
テンマがデミアンに言った。つまりそういうことだ。テンマは見かけヒャッハーで世紀末なくせに頭がいい。いや勘が鋭いのか?
「誰かが竜に食われている間に逃げればいいわけですから私が食われるとは限りませんね。もっとも宝貝もない私が食べられる可能性が一番高い訳ですが」
今回は同じく魔力を封印されたサラサがいるから彼女が食われる可能性もあるけれど。
「どして貴方が…」
ティリカがサラサに詰め寄る。
「私は無理やり下界から連れてこられたからね。ずっと帰りたかったんだ。下界には家族がいるから」
「だったら相談してくれれば…」
「ごめん。心配させたくなくて。でも私には下界の魔法がある。魔力を封印されても飛ぶことができる。きっと逃げ切って見せる」
サラサは安心させるように言った。
「時間デス」
話を打ち切るようにナビゲートロボットが部屋に入ってきた。あの案山子型のナビゲートロボットが。
足元にはいつのまにか巨大な龍が旋回していた。ゲートが開かれた瞬間俺達を食おうと狙っているようだ。
「サヨウナラ。かつて神と呼ばれた人間達。今度こそ忌まわしき影が見つからんことヲ」
そして透明な床が無くなり俺達7人は下界に落とされた。
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