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「もしかしたら俺たちの仲間かもしれない!」
夫の悠真は、今朝のニュースに釘付けになっていた。
食べかけのトーストを片手に持ちながら、一重瞼の細い目をきらきら輝かせてテレビの報道に齧り付いている。
「紗奈! UFOだ、UFOに違いない! 宇宙人が迎えにきてくれたんだ!」
「馬鹿なこと言ってないで、早くご飯食べなよ」
私は宇宙マニアの悠真を適当にあしらい、焼き立てのトーストにバターを塗って頬張る。
昨日新調したばかりのオーブンレンジで焼いたパンは、パン屋さんで出てくる焼き立てパンくらい美味しく焼き上がっていて、私は家電の進化に少し感動してしまう。
「うまっ。悠真、このオーブンレンジ、買って正解だったね」
「パンも良いけど。ほら見てみろよ、この完璧なフォルム。ツヤツヤで滑らかな曲線美。最新の家電でも、こんなにも美しいシェイプのものは見たことない。さすが宇宙の技術だ」
悠真は私やパンなんてお構いなしに、やや早口で、ただの鉄屑の魅力を熱弁している。
「何がそんなに面白いんだか」
一時的にIQが低下してしまった夫の妄言に呆れつつ、しかしながら、UFOという物体に少しばかり好奇心を抱いた私は、チラッとテレビの画面を見てみる。
テレビの向こうでは、私たちの家の近くにある由布央公園が映し出されていた。
白いヘルメットを被る女性のニュースキャスターが興奮しながら、声を高らかにして「私たち地球人に向けた、宇宙からのメッセージなのかもしれません!」と馬鹿げた事を言っている。
ニュースキャスターの背後に映る大きな鉄塊は、確かに私たちの知るような典型的なUFOの形状そのものだった。
中央の直径2mほどの球体の周囲に、土星の輪っかのように広がる薄鈍色の円盤翼が取り付けられている。
そして、その機体の中から未確認生物が「やぁ」と顔を出してきそうな、そんな異様な雰囲気も感じ取れる。
けれど。
幾ら本物に、リアルに寄せたとしても、この私の目を欺くことはできないだろう。
なんせ私は、子どもの頃に“本物のUFO”を見たことがあるからだ。
「ゆうふぉー、ねぇ......」
私は無意識に呟いた。
そんな私の声に、かすかに悠真の肩がぴくんと跳ねるのが見えた。
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