本日未明の未確認飛行物体。

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小さい頃に一度だけ、私は確かにUFOを見た。 しかし、その記憶は何故か不明瞭でもあった。 無数のライトが円状に並び、燦々と輝きを放って空中を舞っているような、そんなイメージ。 宇宙人とも少し話をした気がする。 そのモヤモヤとした記憶は、ずっと私の頭からこびりついて離れなかった。 UFOを見てしまった呪いなのか、はたまた宇宙人の遠隔操作なのか。 一日中“それ”について考える時もあった。 それくらい、私にとって衝撃的な出来事だった。   それから、UFOの神秘にまんまと魅せられてしまった私は、横浜の大学に入学して、独自でUFOの研究会を立ち上げた。 大学には宇宙の本や資料が沢山置いてあり、UFOの研究をするのに持ってこいの環境だった。 実際この研究会は、私一人でも十分に活動が捗っていた。   「言ってくれれば良いのに! UFOの研究、めちゃくちゃ浪漫あるじゃんかよ!」   ある日、私と同じ物理学科の宇宙オタクの男が噂を聞きつけ、このUFO研究会に入ってきた。 私はこのUFOの研究に誰も関わらせる気は無かったのだけれど、その男は気味が悪いほど宇宙に対する熱量が強かったので、仕方なく彼を一人のUFO研究員、副部長(助手)として認めてあげることにした。   「実は俺も宇宙人に興味があってさ。ほら、俺の名前ってローマ字にすると、未確認生物“Unidentified Mysterious Animal”の頭文字になるんだ。こんなの、運命としか考えられない」 「待ってよ。それじゃYが足りないじゃん」 「そしたら、それはYes!の頭文字だな。肯定のYes!」 「イエス、ユーマ? 何じゃそれ」 「いや、良いじゃん。イエス、ユーマ!」 「どこが良いか、さっぱり分からない」 「そういう紗奈だって少しは意識してんだろ?」 「意識って何よ?」 「ほら、名前だよ。名前。逆から読んだらナサだぞ、NASA!」 「やめてよ、マジで恥ずかしい」   不思議と彼といる時間はつまらなくは無かった。 寧ろ、UFOのことしか考えられなかった私の心に、彼は少しばかりの余裕を与えてくれたのだ。 小さいけれど、存在感のあるそのスペースが、私は心地良いとさえ感じた。 「そう言えば紗奈は、何でUFOの研究を始めたの?」 「何でって。うーん。強いて言えば、UFOをもう一度見たいから、かな?」 「もう一度って。紗奈、UFO見たことあんのか!?」 「まぁ、子どもの時に」 「マジか!そいつはスゲェな!」 「……」 「どうした?」 「……悠真は、笑わないの?」 「笑うも何も。だって、それって本当のことだろ?」 「……まぁ、そうだけど」   彼と話をしているうちに、私は彼の事をもっと知りたいと思っていた。   昔のように、UFOにだけ囚われていた私は、いつしか消えて無くなっていた。 宇宙人の手によってキャトルミューティレーションされていた私の心を、悠真が救ってくれたのかもしれない。   「また見れると良いな!UFO」   ーーあぁ私ってば、彼のことが好きなんだ。   その時の、心がぽとんと落ちていく瞬間は、今でも鮮明に覚えている。 私が本当に探していたものは、これだったのかもしれないと。   大学を卒業し、市の公務員として仕事に就いた私は、あれほど熱心に打ち込んでいたUFOの研究を辞めることにした。 その時期に、突然「俺と結婚してくれ!」とプロポーズもされたものだから、その衝撃に危うくUFOを初めて見た時の記憶がフラッシュバックしそうになった。   なんて、そのことは悠真には今でも内緒にしているけれど。
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