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「相変わらず、悠真は宇宙好きだよね」
「そんなこと言ってさ、まだ紗奈もちょっとは興味あるんじゃないの?」
「どうせそれ偽物だよ。物好きが人を驚かしたいために作ったレプリカじゃない?」
「さすが紗奈だな。UFO研究会元部長の発言にはやっぱり重みがある」
「やめてよ、そのイジリ。何年も前の話でしょ」
「ふふ、冗談だってば」
悠真はようやくテレビから私の方に顔を向け、ニヤっとしながらパンを齧る。
「お、確かに美味いなコレ」
「もう冷めちゃったと思うけどね。焼き立てはもっと美味しかったのに」
残念、残念。と私は悠真を心なく励まして、最後の一欠片をぽいっと口に放り込んだ。
手についたパンの粉をお皿の上に払い落とす。
「お、今のパンの欠片。ブラックホールに吸い込まれていくUFOに見えたな。最後は空中分解して、鉄粉がパラパラ落ちていく姿もまさしく宇宙だ」
「誰の口がなんでもかんでも吸い込むブラックホールよ。失礼ね」
私はスッと立ち上がって、済んだ食器を流し台に運ぶ。
「くだらないこと言ってないで、早く食べちゃってよね」と悠真を促すと、ふぇーいと気怠そうな声が背後から小さく聞こえてきた。
「全く、もう仕方ないんだから」
私は、あの弱々しく気が抜けた悠真の返事に、ちょっとだけにやけてしまった。
こういった何気ない日常を過ごすことが、本当の幸せなのかもしれないと、私は思った。
「ねぇねぇ。ご近所さんに落ちてきたんだから、折角だしレプリカ見学しに行かない?」
いつの間にか背後にいた悠真が、私のことをギュッと抱きしめる。その温もりと優しさに、私の心はフワリと宙に浮くような心地良さを覚える。
「そうね。今日はちょうど暇だったから、付いて行ってあげても良いけど」
「やった!宇宙デートだ!」
悠真は少年のようにリビングをひとしきり駆け回った後「これでようやく、あの日の夢が叶うね」と私に言った。
私は上がりそうになった口角を必死に抑えながら、黙って頷いた。
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