「無」が落ちてきた

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2年前……。 頭の中に「無」が落ちてきた。 いつも普通に見えていた職場の風景が無音になり、回りの人動きにも無感心になり。目に入る物、耳から入る物に何も心が動かなくなった。 「もう、終わりにしよう」 その言葉だけが「無」になった頭の中にうかんだ。 「急に辞めるってどういう事?」 「すみません、私の様な者をこんな上の役職に上げていただいたのに」 「じゃなくてさぁ、理由を聞いてるんだけど」 「はい、もう何も感じなくなったんです。だから私の役目は終わったんだと……もう出来る事はないのだと」 「それは君が決める事じゃないんじゃない?会社は君を必要としてるからここを任せてるんだぞ?」 「無責任な事と重々承知しております。でも私の今の状態で役職を勤めたら会社に不利益をもたらします。そうなる前に身を引かせて下さい」 堂々巡りの会話はお昼前から夜にまで続き、私はこの会社を去る事になった。 仕事尽くめだった生活から何もない生活に変わり数ヶ月、それまでの自分から素の自分になった頃。 「突然申し訳ございません、わたくし……」 何処で調べたのか管理職を主とする人材派遣会社からの連絡が入った。 「派遣ですか?」 「はい、ハイスキルを持った方を各現場の管理者として派遣するコーディネーターをしておりますわたくし早川と申します」 「はぁ……」 そして私は管理者としての派遣社員になった。
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