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研究所を無力化してから一ヶ月が経った。 今のところアメーバが出たという報道は一切ない。
「本当に僕たち大活躍だったんだね!!」
「あぁ。 一ヶ月経った今でも報道されているって凄いな」
栄輝と奨は本物のヒーローとなった。 研究所を出た後通報し研究者は皆逮捕されたのだ。 防犯カメラが栄輝たちを撮影していて、悪者を懲らしめたという記録が残っていた。
色々と不安もあったがどうやら世間は二人を英雄と認めることにしたらしい。 誰しもアメーバに恐怖する毎日なんて嫌だったのだ。
「これこそ勧善懲悪だ!!」
「でもまぁ、アイツらが言っていたことも何となく分かるけどな」
「うん? 国民を言う通りにさせたいから権力者を減らすっていうヤツ?」
「あぁ。 自分たちがトップに立てば国を上手くやっていけるっていう気持ち。 実際どうかは分からないけど、何だかんだ不満を抱えている人って多いと思うから」
そのような話をしていたところにすっかり活力を取り戻し元気な咲良が現れる。
あの日活力を解放しどうなるのか注視していたが、テレビなどで情報を知る限りでは全ての人に活力が戻り元気になったらしい。 咲良もまた夢に向かって歩き始めたのだ。
「栄輝くん、奨くん、お待たせ!」
二人は咲良の家へ来ていた。 準備を終えた咲良はマイクを持って二人の前に現れる。
「今から何の歌を歌うんだ?」
「私の一番好きな曲を歌うよ! 前向きでとても明るい曲だから大好きなの!」
そうして咲良のコンサートが始まった。 生き生きとした咲良の歌声は本当に心に響く。
―――咲良の活力が戻って本当によかった。
―――咲良の活力が奪われなければ俺は悪者を突き止めて懲らしめたりはしなかったかもしれない。
正直なところやはりヒーローのバイト代がなくなったのは痛い。 他のヒーローたちも同様にそう思っているのかもしれない。
しかし、身近な人に絶対被害がないと言い切れなかった状態から解放されたのは大きかった。 そのため栄輝は全く後悔はしていない。 楽しそうに歌う咲良が好きだった。
その笑顔を取り戻せたのはお金には代えられない大切なことだ。 歌い終わり拍手を送る。
「本当に咲良さんは歌が上手いね! 最高過ぎる!!」
「ありがとう!」
「ねぇ、今のうちにサインをもらっておいてもいいかな!? 一生の宝物にするから!!」
「おい、俺の彼女なんだからあまり踏み込んだことはするなよ?」
「分かってるって! でも咲良さんのファン第一号になるからよろしくね!!」
栄輝は咲良の活力が戻ったその日に告白し、OKをもらった。 これもアメーバを倒したことがきっかけとなったため、ある意味栄輝はアメーバに感謝してさえいる。 その時咲良の母の声が聞こえてきた。
「咲良ー! オーディションの結果が届いたわよー」
「はーい! 栄輝くんたち、ちょっと待ってて!」
咲良は少し不安そうな表情を見せ部屋を出ていく。
「オーディションって咲良さんが活力を吸われる前の日にやったものだよね?」
「あぁ。 吸い取られていたらオーディションなんて受けられなかっただろうな」
しばらくすると慌ただしく階段を上る音が聞こえてきた。
「栄輝くん、奨くん見て!! オーディションに合格したの!!」
「マジで!?」「本当に!?」
二人は一度顔を見合わせるとオーディション通知の“合格”という文字を食い入るように見た。
「おめでとう、咲良さん!! これでテレビデビューじゃない!?」
「もしかしたらそうなるかも! 凄く嬉しい!!」
「これからも頑張れよ。 ずっと最前列で応援していくから」
「ありがとう、物凄く心強いよ!」
そう言うと咲良は言った。
「そう言えば、栄輝くんたちはもうヒーローはしないの?」
先程まで見ていたニュースでは栄輝と奨の素顔まで公開され、二人は咲良以上に有名人となった。 芸能人でもないのにサインを求められることもある始末。
とはいえ、もう腕時計は使えずそれは他のヒーローも同様らしい。 それでも腕時計は希少品として取引されているらしく、オークションで1億円の値が付いたという噂もある。
「ヒーローは続けたいけどもう変身スーツはないからねぇ?」
「もうアメーバは出てこないしな」
研究所にあった有用な機械なども全て使えなくなった。 というより、調査団が組まれいざ調査しようという時になって、研究所自体がまるで幻のように消え去ってしまったらしいのだ。
「でもヒーローをやってみて凄く達成感があったんだ。 人を助ける仕事に就きたいなって思うようになった」
「栄輝くんにぴったりだよ! 私もその夢応援するね!!」
「ありがとな」
―――夢や目標がある人はその時が一番輝いて見える。
―――もしかしたら今の安息は長く続かないのかもしれない。
―――だけど俺はきっとその時までに人々を守るための力を手に入れたい。
―――勧善懲悪という言葉があるように、決して悪い奴らに負けることはないんだ。
「なぁ、咲良」
「どうしたの、突然?」
「俺がきっとその笑顔を守ってみせるから」
-END-
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