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ヒーローになる前の栄輝はごくごく普通な高校生だったと自負している。 クラスの中心でもなければ、一人孤独に食事をつまむようなわけでもない。
ただ両親がいる他の友人を少しばかり羨ましく思うくらいの平凡な生徒だった。 そのため学校帰り突然黒いスーツを身に纏った二人の男性に呼び止められ驚かないわけがなかった。
「突然ですが、栄輝さんでお間違いないですね?」
「え・・・。 そうですが」
「我々はこういうものです」
そう言って名刺を渡された。 人生初めての名刺、そこには名前などと並んで“緋色協会”と書かれていた。
「怪しい者ではありませんので警戒しなくて大丈夫です。 正式に政府に認められた組織ですので」
そう言われても怖さが勝り素直には頷けない。
「はぁ・・・。 そのような方たちが俺に何か用ですか?」
「貴方にはこの国を守るヒーローになっていただきたいのです」
「ヒーロー? それってもしかしてアメーバを倒す?」
「その通りです」
ヒーローと言われてピンとくるのは特撮系アニメかアメーバ関連である。 特撮系アニメのスカウトが自分に来るわけがないと思ったが、冷静に考えてアメーバ退治のヒーローも自分にはおかしい。
ただ相手は冗談を言っているような雰囲気はなく、その表情から本気さが伺えた。
「ヒーローになっている人はこうやってスカウトを受けてなるんですか?」
「はい。 希望者を募るわけではなく、私どもでスカウトさせてもらっております」
「どうして俺なんですか? 俺なんて体力も平凡だし判断力も鋭いとは言えないから、向いていないと思うんですけど・・・」
「貴方のことを調べさせていただきました。 貴方は父子家庭で育てられていますね?」
勝手に自分のことを調べられていて少し警戒度が増した。
「・・・だったら何だって言うんだ?」
「ヒーローは当然無償労働をしてもらっているわけではありません。 国から予算が出ており、それなりの報酬をお渡しすると約束します」
「予算、報酬って、まさか金をくれるのか?」
「アメーバを一体倒すごとに一万円を差し上げます」
「一万・・・ッ!?」
「はい。 といっても、もちろん国からの予算がこんなに少ないわけではありません。 これは私どもの組織のお手伝いをして頂いた謝礼と思って頂ければいいです。
この地域だけでもアメーバは一日に10体程は出るでしょう。 全てを倒せば一日10万円を稼ぐというのも夢ではないですよ」
「一日10万・・・」
「どうですか? 日本を救うために。 そして、自分の生活のために」
正直ヒーローになる気なんてなかったが、一体倒すだけでそれだけのお金が入るならと思い留まる。
―――今働いているバイト代よりも断然こっちの方が高いんだよな・・・。
ただ高校生にはあまりに割のいい仕事で、何か裏がありそうだと思った。
「俺ヒーローについて詳しくありません。 俺の身に危険なことは及ばないんですか?」
尋ねるとヒーロースーツの特性を教えてくれた。 スーツを纏うとアメーバに近付いても活力を吸い取られないため、寧ろ一般人よりも安全であると言われた。
―――・・・これで父さんの負担が少しでも減るなら俺も頑張ってみようかな。
そう思い承諾する。 いくつか説明はあったが、どこかに移動するようなこともなく路上のまま。
「ありがとうございます。 こちらで貴方様専用の銀行口座を作らせていただくので報酬はそこでお渡しします。 それとこれを」
何となく胡散臭いと思いながら渡された腕時計を眺めてみる。 どう見ても安物には見えず、詐欺のようなものであったらタダで渡すのはどう考えてもおかしい。
いくつかの操作をしてこれに向かって『変身』と唱えれば変身ができるらしい。 アメーバの簡単な倒し方も教えてくれた。
「一つ約束事があります」
「何ですか?」
「どうか自分がヒーローだと周りにバレないようにしてください」
「どうしてですか?」
「これは貴方を守るためでもあるのです。 ヒーローの重責に押し潰されないように。 それにヒーローになりたいと思う者がいてもデバイスには数に限りがありますし、悪用されても困るからです。
ヒーローはただアメーバを倒せるようになるというわけではないので」
「もしバレたらどうなるんですか?」
「バレたらデバイスにロックがかかり今後変身ができなくなります。 同時に自分がヒーローだったという記憶も消去され一般人に戻ります。
今まで働いた分のお金はお渡ししますが、もうヒーローではなくなるので、それ以降たとえアメーバを撃退したとしても報酬をお渡しすることができなくなります。
もっともそんなことは不可能だと思いますが」
「そうですか・・・」
「もし誰かに勘付かれてもその人だけが素性の情報を隠し持っていれば大丈夫です。 広まらなければ問題ないので。 まぁ事故もありますけどね」
「事故?」
「変身している間に姿を見られた場合です。 変身にはどうしても5秒はかかってしまいますから」
「その場合はどうなるんですか・・・?」
「その場合は変身している間はスーツの効果は消えませんが、一度元の姿に戻ったらもう変身ができなくなります。
そう言えば我々のことを思い出してしまうという不都合も生まれますが、仕方ありませんよね」
「え?」
「その場合は我々が再び貴方の記憶を消しに向かうので問題ありません。 では栄輝さん、お願いします」
そう言うと男性は栄輝に向かって奇妙な機械を向け眩い光が放たれた。
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