ヒーローの秘密物語

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言ってから少々突拍子もないことだと思ったが、やはり奨は首を傾げていた。 もし逆の立場だったなら簡単に理解することなんて無理で、じゃあどういうのがよかったのかと考えてみるも、なかなかいい言葉は浮かばない。 「・・・記憶がなくなる? どういうこと?」 「悠長に説明をしている時間がないんだ。 何を言っているのか分からないかもしれないけど、黒スーツの男が実際に来たら俺の言ったことを信じてくれ。 そして近くで見ていてくれたらいい」 「その黒スーツを尾行すればいいの?」 「そうだ。 十分気を付けてな」 「栄輝はその間どうするの?」 「俺は記憶を消されてしまうから今話しているこの計画を忘れてしまっている可能性が高い。 改めて奨から俺に説明して尾行に連れていってくれ」 記憶を消されるのがどこからどこまでなのか全く分からない。 もしかしたら命の危険もあるかもしれない。 なのに栄輝はあまり恐怖を感じていなかった。 「何か難しそうだしそう簡単に上手くいくのかなぁ・・・。 その男の人とアメーバ退治は関係しているんだよね?」 「しているから頼んでいるんだ」 「・・・分かったよ」 記憶が今の時間から一瞬でなくなるなんて普通は考えられない。 あまり信じていない様子の奨だったがOKしてくれた。 「俺は広い場所へ出て待機している。 話が終わって男の人が去ったら無理にでも俺を連れて尾行するんだぞ」 「うん」 最終確認をして奨と離れた。 そしてそれから10分程で考えていた通りにスーツを身に纏った男性が二人栄輝に近付いてきた。 「栄輝さんですね?」 「・・・あぁ。 俺の記憶を消しに来たんですよね?」 「その通りです、やはり思い出したんですね。 あとは腕時計の回収です」 「貴方たちにとってアメーバはただ退治するだけの対象ではない。 合っていますか?」 「・・・何のことでしょう」 「色々と怪しいからですよ。 そもそもどうして記憶を消す必要があるんですか?」 「それを話す理由が我々にありますか?」 「こそこそとヒーローをするよりも人々の前へ出て活躍した方がモチベーションは上がる。 その方がいいと思うんですが」 「モチベーションを上げてもらうために報奨金を出しているじゃないですか」 「金は有難いけど貴方たちが潜む理由が分からない。 政府から認められているのなら堂々と人々の前へ出てもいいと思うのに」 「・・・ヒーローがヒーローだと知れ渡ったら動きづらくなる。 それだけのことです」 「それだけでは到底納得できません。 後ろめたいという気持ちがあるから言えないんじゃないですか?」 「そろそろ黙ってください。 我々も暇ではないので」 そう言って懐から何かの機械を取り出そうとした。 ―――・・・初めてこの人たちと出会った時もこうやって俺は記憶を消されたのか。 記憶を消されることは覚悟していた。 抵抗したいところだが変身ができない今、実力は一般人と変わらない。 寧ろガタイのいい彼らの方が強いだろう。 目を瞑りその時を待つ。 眩しい光が現れると思ったが鈍い音が聞こえた。 「栄輝に手を出すなッ!!」 「・・・奨!?」 奨がこっそり背後に回り男たちに攻撃していた。 ―――ここで出てこいとは言ってねぇだろ!! 「おい! 何をする!!」 「それはこっちの台詞だ! 今栄輝に何をしようとした!?」 「小癪な真似を・・・ッ!」 黒スーツ二人組も手を出そうとするが奨は軽々と避ける。 「何!?」 その動きに驚いたのは男だけではなかった。 ―――今奨は変身していないよな・・・? ―――なのにどうしてこんなにも運動神経がいいんだ? ―――普段スポーツとか運動は全くしなさそうなイメージなのに・・・。 そこで奨はヒーローだったことを思い出した。 ―――もしかして変身程身体能力は上がらなくても、日頃からアメーバと対峙していれば自然と戦闘能力が身に付くのか? ―――なら俺も・・・ッ! 奨だけに任せないよう栄輝も攻撃してみた。 すると自分も思っていた以上に動けることに気付く。 ―――いける・・・! ―――ヒーローであった時の感覚はないけど、ただの人間相手なら素の状態でもいける!! そういうことで協力し男二人を無力化することができた。 今はぐったりと地面に横たわっているが、当然命には別条はない。 「・・・攻撃しちゃってよかった?」 奨が恐る恐る尋ねてくる。 「あぁ、結果オーライってところかな」 そう言うと奨は安心したように笑う。 「よかった。 何か怪し気な雰囲気だったから思わず飛び出してきちゃった。 そう言えばどうして栄輝はそんなに喧嘩が強いの? 何か習い事でもしていたっけ?」 まさかの天然発言。 ここで自分も『奨こそどうしてそんなに喧嘩ができるんだ?』と尋ねられたらどうするのだろうか。 「あー。 そういうのじゃないんだけど火事場の馬鹿力っていうヤツ? 奨だけに任せっぱなしは駄目だと思ったからさ」 そう適当に返して男の人に尋ねかけた。 「それで、貴方たちの所属する本部まで案内してくれますか?」 そう言うと男は証拠隠滅のためか奇妙に歯を食い縛ろうとした。 そうはさせまいと自らの手首を男の口の中に突っ込む。 噛まれて痛いが今はこのチャンスは逃すまいという気持ちの方が勝っているため平気だった。
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