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……中谷美紀さんと監督さんの会話ははっきりとは聞き取れませんでした。互いが真剣そのもの、といった印象を強く受けました。
監督さんがなにか語るたびに、中谷さんは、ふんふんと監督さんの視線を真正面から受け、目をそらさずにうなづいたり、受け答えをされておられました。
さて、テーブルの上には、大きな灰皿がひとつ。
煙がもうもうと真っ直ぐ上に立ち上っていました。さきほど撮影に使った葉巻の燃えかすが、燻り燃えているのです。
普通のタバコなら、それほどの煙はあがらないでしょうけど、葉巻が数本……。
すごい煙……でした。
けれど。
監督さんは一向に意に介せず、熱く語り続けています。
灰皿も熱くなっているはず。
煙は目に沁みるほどのすごさなのに、中谷美紀さんは、手で煙を振り払おうとはせず、監督さんの視線から目を逸しません。
ひゃあ。
と、おもった紙葉は、そのままテーブルに近づいて、その灰皿を左手で握って、そのまま持ち去りました。トイレで水をかけ、廊下にあった大きな灰皿にカスを入れ、テッシュで灰皿を拭き、そのまま、もとのテーブルの上にそっと置いたのでした……。
さて。
監督さんとの打ち合わせが終わったとき、おもむろに中谷美紀さんは、エキストラが固まって休憩している壁際のほうを背伸びするように眺めておられました。
そして……
つかつか……と、歩いて、エキストラ群の方へやってきました。
そのなかから紙葉を見つけると、さらに近づいてこられて、
「さきほどは、ありがとうございました」
と、ぴょこんと紙葉に頭を下げてくださったのであります。
ひゃあ。
最初、何事かと紙葉は、驚き、しどろもどろになって、
「い、い、いえ、いえ、とんでもないございませぬ」
と、つい侍口調で答えてしまいました。
ひゃあ。
日本を代表する女優さんが、これほど謙虚だとは……と、心底、感激させられました。
ひゃあ。
しばらくの間、からだの震えが止まりませんでした😳
功成り名を遂げた人は多くいても、誰もが中谷美紀さんのような行動が自然ととれるかといえば、そうではないはずです。やはり、日頃からの姿勢、あるいは、大げさに言えば、生きざまのようなものとリンクしているのではないかしらとも考えさせられました。
実はそれまで、推しの女優さんではなかったのですが(オイオイ😊)、この日から紙葉のなかでは中谷美紀さんは忘れられないひとになりました。
さて、次回は、エキストラとは直接は関係ないのですが、ずっと以前に、大島渚監督、今井雅之さんを取材させていただいたときのエピソードを、演じる、あるいは、ドラマづくりの観点から、続けてどうぞ……。
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