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【Supreme Hazard】音艦
宇宙を旅する音楽艦【音艦】
突然、細く震えた音が耳に届いた。
バイオリンのような。なんだろう。
まだ人が集まっていないのに始めるんだ。
「Supreme Hazard。音艦は、偶然そこにいるあなた達のために奏でます」
まじか。
「今日はアルファ艇から、バイオリニストのサディとEDMのDJサトルがお送りします」
顔が見えるくらいまで近づこうかな。
「皆さん、場所はそのままで大丈夫です。ゆっくりと楽しんでください」
テンポの早い旋律が始まった。
寝転がったまま、聞いてみる。
そういえばAR加工もあるのかな。
ARグラスをかけてみたところ、ch1では音楽はなく、夜空に大きなクジラが浮かんでいた。
Ch2。景色がポリゴン化され、サイケデリックな幾何学風景になっていた。キュビスムのような変な絵画が動いている感覚。そこでは脱感覚的なEDMが流れている。骨伝導なので、バイオリンの音も一緒に聞こえてくる。
Ch3。景色は現実と同じで、聞こえるのは弦楽器の三重奏だ。
Ch4は無いので、おそらくchは3つのみだろう。
Chを1に戻し、夜空を漂う薄緑のクジラを眺めながらヴァイオリンの音に耽った。
なぜか反響して聞こえるなと思ったら、おそらく音艦が張った空間バリアが音楽ホールのような反響構造をしているのだろう。
ゆったり聞いているうちに人がぞろぞろと増えてきた。そうだよな。ウォル公園…というかこの地区で音艦は来たことがないし、この星に来たのも何回だ?1年に1回ニュースを見たか見なかったかくらいだ。
「Supreme Hazard。偶然を彩れ。」
良かった。あ~、フェレック呼べばよかった。クラシック大好きじゃん。まだ間に合うかな。
Prrrrrr
「おー何?どした」
「今さー、ウォル公園に音艦来てるよ」
「まじか!仕事中で見てなかった」
「しかもバイオリニスト。名前なんだっけ、えーとニュースでは春道…」
「春道清風!まじかよ!ohhそれ何時までやってんの?」
「んー調べた感じ、平均2時間くらいだな。もう30分は終わった」
「ちょっと上司に言って、なんとかしてそっち行くわ。お前どの辺におる?」
「崖前の芝生。でもお前が来るなら会場の近くまで行っておくわ」
「おけ、助かる」
それからもゆったり聞いていた。たまにChを変えて変な気分も味わった。
30分後、フェレックが来た。
「ちょ待て待て、音響やばくね?!」
「そうだよな。たぶん防音バリアがそのまま音響効果もうんでる」
「知らなかった…。すげぇ。DJいるけど、EDM聞こえないの?」
「Ch2にしたら見えるよ。今日はあくまでバイオリンがメインっぽいな」
「そりゃそうだ。春道清風だぞ。少なくともサダルジャッジ銀河1のバイオリニストだ。エラーレイク銀河団の中ではさすがにまだまだって所だが」
「まじか、そりゃすげぇ」
「俺がわざわざ5日かけてサダルジャッジ銀河抜けてピーフェン銀河に行ってまでコンサート見に行ったくらいだ」
「よっぽどだな。まってピーフェン俺行ったことないぜ。どんな所だっけ。」
「いや~コンサート以外あんま見てないからなぁ。自転が17時間のくせに照明ドームじゃなかったから、感覚バグったよ」
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