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好きの重さ
どうして、こんなに悲しんだろう。
どうして、こんなに寂しんだろう。
そうして、こんなに好きなんだろう。
青空が晴れやかに広がり、風が爽やかに吹き抜けて、世界は希望で満ちているような眩しい日。高台にあるベンチに、亜里沙と並んで座る。
「成はこんな小さな町で満足してちゃダメ。もっと、もっと広い世界を見て、もっともっといろんな事を感じて、もっともっと凄い人になって。」
亜里沙は、青空のように、風のように、俺たちを照らす太陽の様に笑いながら、話す。
「それで、こんな小さな町まで成の名前が聞こえるような活躍をしてよね。そしたら私、半径1mの人達に自慢しまくるから、『私の元カレ』って。」
元カレ。
その言葉は、沈んでいる俺の心をさらに沈ませた。
「俺、行きたく無いよ。」
爽やかな風に消されそうな小さな声を、やっとの思いで出して、亜里沙の横顔を見た。
「何、言ってるの。そんなの、私が許さない。」
亜里沙は俺の肩を強く叩くと、睨むように俺を見た。
地元の大学でデザインの勉強をしている俺が、色々出していたコンテストの中の一つで大賞を受賞した。
それがきっかけで、海外のクリエーターから声が掛かって、自分の事務所で勉強してみないかと、夢のような話を頂いたのだが。
俺は、地元を離れて、しかも海外に行くことに、全然乗り気じゃ無かった。
だって、亜里沙と離れなければならないから。
高校時代からずっと片思いして、二十歳の成人式で再開した時、やっぱり好きで、振られるつもりで告白した。
そしたら、あっさりOKで。
俺はあの時から、ついこの間まで、信じられないくらい幸せな時を過ごしていたのに。海外から声が掛かったと話をすると、「いつ帰って来られるか分からない成を待つつもりは無い。」と、はっきり別れを言い渡された。
そんなの嫌だ。
亜里沙と別れるなら、海外なんて行きたくない。
「成の才能、私が潰したって言われたくないの。そういうの、ちゃんと汲み取って発言してよね。」
俺がウジウジと、海外行きも、別れる事も嫌だと駄々をこねていると、亜里沙は強い口調で拒否をした。
亜里沙と俺は、ラブラブなカップルと言うより、仲の良い友達みたいなカップルだった。
きっと亜里沙は、友達の延長で俺と付き合ってたんだ。
だから、こんなにあっさり別れられるんだ。
俺はこんなに、亜里沙の事が好きなのに。
俺たちの恋愛は、俺ばっかりが重くて、上がらないシーソーみたいだ。
亜里沙の強い瞳を、今にも泣き出しそうな目で見返したら、我慢できなくなった。
「分かった。
次に亜里沙が付き合う人は、俺みたいに友達みたいな男じゃ無くて、ちゃんと愛せる男にしろよ。」
俺は吐き捨てるようにそう言って、傍らに置いたキャリーバックを引いて、亜里沙に背を向けてベンチを離れた。
最後に見せるのが泣き顔なんて、いくら俺でもカッコ悪すぎる。
最後ぐらい、精一杯カッコつけさせてくれ。
涙がこぼれて止まらない顔を見られたく無くて、足早に歩く。
「成。」
空いた右手を、追いかけて来た亜里沙が強く引いた。
驚いて足を止めたけど、俺は一生懸命亜里沙から顔を背けて、涙を隠した。
「私、成のこと、友達なんて思ってない。ちゃんと、ずっと、好きだよ。」
亜里沙の声が震えていて、俺は逸らしていた顔を亜里沙に向けた。
亜里沙は大きな目から涙を流し、真っ直ぐ俺を見上げている。初めて見る亜里沙の泣き顔は、俺と同じ顔をしていた。
悲しくて、寂しくて、愛おしい。
俺たちは真っ直ぐ見つめ合うと、力いっぱい抱き締めた。
「成の事、大好きだから、命一杯、頑張って欲しいの。私の事、忘れちゃうくらい、頑張って欲しいの。だから…。」
亜里沙の震える声は、俺の涙腺と本音を崩壊させた。
「忘れないよ。こんなに好きな亜里沙の事、絶対に忘れない。だから、別れたくないよ。」
「でも、海外には…。」
「行くよ。亜里沙がこんな思いまでして送り出してくれたんだから。海外に行って、亜里沙のおかげで成功したって言えるくらい頑張るよ。」
「ホント?」
「うん。だから、ここから見てて。『彼氏』が成功する姿。」
「うん。」
彼女の亜里沙が頷くと、笑顔の唇に、刻み込むようにキスをした。
この唇に触れていいのは、彼氏の俺だけだ。
了
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