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1.
ウサギは深呼吸してから鏡の前に立った。
鏡の中の自分は、背筋が伸びた、美しい立ち姿をしている。
(よし。悪くない…)
次に、緩やかに身体全体を動かして、いくつかのポーズを取る。
顔を反らせた姿勢で再び鏡を覗きこむと、自身を見つめる流し目と目が合った。
(美しい…)
しかし、ウサギの気持ちは沈んでいた。
ウサギは舞台俳優で、来月の公演で主演を務めることになっているのだが、いまだ役の気持ちが掴めていないのである。
(美しさは武器だ。舞台に立った僕の姿を見るだけで、観客は満足するだろう。それは認めるさ……。だけど…)
ウサギは鏡から目を背けて、こぶしを握りしめた。
(それでは僕が満足できないんだ!役者である僕は、自分の外側の美しさだけでなく、内側にあるエネルギーをも目に見える形にして、観客に訴え、表現しなければいけないんだ…!)
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