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友子と英雄
「俺、思うんだけどさ」
光は英雄の影でキョロキョロしながら言う。
「もうこの際だから、但木さんをつけるのは一旦おいておく。で、なんで今日は麗乃さんを尾行するんだよ」
フヒッ、と気持ち悪い笑みを浮かべる英雄。
「麗たんにとって彼女はとても大切な存在。つまり、麗たんをお守りする為には、彼女も合わせて守らなければいけないという事さ」
「……変に理屈言いやがって、バカが」
光は英雄の頭を軽くはたいた。
「言っとくが彼女はキックボクシングのエースだぞ。おまけにあの体格であのデカさだ。正直言ってお前が守る必要なんかこれっぽっちもないだろ」
しかし、英雄は首を横に振りながら眉間にしわを寄せる。
「なんて事言うんだヒカル。確かに彼女はあの体格でキックボクシングのエースかもしれない。だけどその前に一人の女の子なんだぞ」
「……見た目と行動がまともなら、今のめちゃくちゃカッコよかったぞお前」
「おいおい、そんなこと言ったら、俺の見た目はまだしも行動がまともじゃないみたいじゃないか」
「あぁ、安心しとけ。行動よりは見た目のほうがいくらかマシだ」
ここで、友子は角を曲がった。
「あ、曲がった!追うぞヒカル」
「……はぁ」
二人は友子を追いかけ角を曲がる。だが……、
「あれ、いない」
「消えた……?」
実は二人の尾行に早々に気づいていた友子は、角の塀に身を隠していた。呆然と立ち尽くす二人の背後にそっと忍び寄る友子。
「おい」
ウヒャッ、とキモい叫び声を上げて尻もちをつく英雄。
「お前ら、ずっと私をつけてたよな?」
友子は二人を睨みつける。
「お、おぉ〜、麗乃さん。こ、こんな所で合うなんて、奇遇だなぁ〜」
機転をきかせる光。
「黙れ。バレてんだよ」
友子の圧に押され、二人は後ずさる。
「い、いや、俺はこいつに付き合って……」
そう言って光は英雄を指さす。突然の裏切りに、英雄はねっちょねちょの脂汗が止まらない。
「……もしかして、麗に手紙を書いたのもお前?」
「あ、はい!俺、麗た……、但木さんに……」
「キモい。ブタ。消えろ、クズが」
そう言って、友子は英雄のみぞおちを踏みつける。
「うごッ」
「麗に近付くな。言ってる意味わかるか?」
英雄は、小刻みに何度も首を縦に振った。
「……チッ」
舌打ちしながら、友子は立ち去った。
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