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不格好な人形マスクの中の男の眼を見る。
影になっていて見えるはずのない男の眼は、それでも満足そうに思えた。
痛いのか熱いのか、冷たいのかも分からない。
大人しくなっていた鼓動が騒ぎ出す。
男は、メスを握る白いナイロンの片手の上に、もう片方の手を乗せて、ぐうっと下に下ろした。
嘘だ 嘘だ こんなの...
「は... はは はは... 」
血が出るほど乾いた喉から笑いが洩れる。
頭の中には蕩けるような 何か温かいものが充満した。
下腹から引き出された物は、もう白くなかった。
懐中電灯の明かりは 赤く艶めくものを照らしている。
喉の奥に血の味がする。嘘だ、こんなの。
男は 赤く艶めくそれを、俺の右の脇腹に挿し込むと、両手で、ぐ、ぐ... と 真横に引いている。
温かい濡れたものが膝に溢れてきた。
蠕きをやめた芋虫のようなものが 膝から床にも落ちる。
あぁ、集めなくては。集めて元に戻さなくては。
だって、これは 俺の...
血と酷い臭いが鼻を掠めた時、乾いた喉で 音のない絶叫を上げた。
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