13/13

195人が本棚に入れています
本棚に追加
/298ページ
不格好な人形マスクの中の男の眼を見る。 影になっていて見えるはずのない男の眼は、それでも満足そうに思えた。 痛いのか熱いのか、冷たいのかも分からない。 大人しくなっていた鼓動が騒ぎ出す。 男は、メスを握る白いナイロンの片手の上に、もう片方の手を乗せて、ぐうっと下に下ろした。 嘘だ 嘘だ こんなの... 「は...  はは はは... 」 血が出るほど乾いた喉から笑いが洩れる。 頭の中には(とろ)けるような 何か温かいものが充満した。 下腹から引き出された物は、もう白くなかった。 懐中電灯の明かりは 赤く艶めくものを照らしている。 喉の奥に血の味がする。嘘だ、こんなの。 男は 赤く艶めくそれを、俺の右の脇腹に挿し込むと、両手で、ぐ、ぐ... と 真横に引いている。 温かい濡れたものが膝に(こぼ)れてきた。 (うごめ)きをやめた芋虫のようなものが 膝から床にも落ちる。 あぁ、集めなくては。集めて元に戻さなくては。 だって、これは 俺の... 血と酷い臭いが鼻を掠めた時、乾いた喉で 音のない絶叫を上げた。
/298ページ

最初のコメントを投稿しよう!

195人が本棚に入れています
本棚に追加