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「及川 浬」
子供の時に 神話の絵本で見たような 白い衣類を着て、幾重にも重ねた翡翠の細い首飾りをした人は、両手を両袖の中に組んで、長く 少し曲のある黒髪を高い位置で ひとつに括っている。
凛々しく黒い眉に、奥二重の眼。
日本人?にしては 高く、すっとした鼻梁に、きりっと引き締まった唇。
こんな美形、間近で見たことがない。
妖しい色香のようなものにも押されて
「はい」とだけ答えた。
「落ち着いたようだな。
ここは月の宮であり、お前のような死人が 一時 安らぐための処だ」
月の宮...
“月夜見大神” と、聞いた気がする。
本当に 神様なのか...
「この後、往くべき それぞれの界へと移る」
“いくべき” という言葉のニュアンスが、行く でも 逝く でもない気がしたのは、転生することがあるためのようだ。
俺はまだ、転生したくない。
出来るなら、父さんや母さんを見守りたい。
もし、つらい思いをしている時があったら、“大丈夫だよ” って言ってあげたいんだ。声が届かなくても。
遠く遠くであって欲しい いつか... 再会する時まで。
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