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改めて、二年前に帰った時と変らない バルコニーの中を見た。
バルコニーの すぐ中は、四畳くらいの何もない場所になっていて、向かいには 一階へ降りる階段、右手には俺の部屋、左手には父さん達の寝室がある。
... こんな形で、帰って来る事になってしまった。
窓を開けようとすると、手が 窓の向こうに入ってしまい、ギョッとした。
廃病院の医者は、ドアも壁も通り抜けられる奴は、もう自分が何者だったかも覚えていない... と言っていた。
だがすぐに、あ... と 思い当たった。
俺は もう、現世の人間... というか霊じゃないんだった。
きっと、現世に居たまま迷ってしまうと、自分が誰だったかも忘れてしまうんだ。
何も無い場所を通り抜けて、階段を降りる。
父さんも母さんも仕事なんじゃないか? と思ったけど、リビングと続きになっている座敷からは 声がした。
『... そうですか、高校の時の。
あの子も喜んでいると思います』
母さんの声だ...
誰かに挨拶をしている。
リビングのドアを通過して入ると、続きの座敷には、奥に置かれて 白い布が掛けられたテーブルの上に、俺の遺影と位牌があって、たくさんの花や供え物があった。
もう、葬儀や納骨は終わった後みたいだ。
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