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「なかなかの役者ですね、水戸部さん」
一歩踏み出したのは土門だ。このシンプルな服装の大学院生は、木岡含め学生ばかりのバイトの中で妙な存在感を放っていた。彼が言うとただの褒め言葉がどうして胡散臭く聞こえるのだろうか。途中で遮られた火宮も天敵を発見したリスみたいになっている。
「呪いのトランプの件も、あなたが仕掛けたんですよね? 例の彼が暴れ出した時、嬉しそうに微笑んでいたのを見ましたよ?」
「土門君、それは言いがかりじゃないか?」
「それと、あの呪いの手形。僕は最初からスタッフの方を疑っていて、皆さんの手を密かにチェックしていました。すると、いらっしゃったんですよ、赤い塗料が指先に残った方が。僕は『それどうしたんですか?』と聞きました。当然ですよね? その方が色々教えてくれました。例えば……」
不自然な溜め。急に緑豊かな山の空気を味わいたくなった訳でもないだろうに。
「……水戸部さんに脅されて無理やりやらされた、とか」
「本当にそんなことを? 何で彼はそんな嘘を言ったんだろう? それとも、嘘をついているのは君の方なのかな?」
胸が潰されるような苦い気持ちになり、木岡は唇を噛んだ。ロープを持っている現場を押さえれば認めるはずだと、軽く考えていたのが甘かった。あと一押し、決定的な何かが足りない。
だが、土門はなぜか微笑んでいた。
「確かに、僕は今嘘をつきました。半分ほどですが。しかし、あなたは大嘘つきですね」
「え?」
「水戸部さんは先ほど『彼』と言いました。僕は男性とも女性とも言っていないのに、どうして知っているんですか?」
山の木々のざわめきが一際大きくなった気がした。でも、風はヒリつくような沈黙に覆われた空気を吹き飛ばしてはくれない。汗ばんでいる首筋をふと意識しつつ、木岡は言った。
「何でこんなことを? 目的は何なんだ?」
「想像に難くないですよ。求人情報にあった仕事内容はただのカムフラージュで、本当は集めた若者が恐怖し苦しむ姿が見たかったのでしょう。それか、そういう娯楽を求めるパトロンがいるのかも知れませんね」
「……土門さんって、関係者か何かですか?」
「この人、思考がひねくれてるから……」
フォローなのか悪口なのか分からないことを火宮が言った時だった。
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