機械仕掛けの神、落ちる。

1/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 ザワザワと、心を波立たせる風が吹いた。俗世間から隔離された山奥。ここで起きていた奇妙で邪悪な出来事の数々に、決着がつこうとしていた。  来客を拒むようにポツンと立っている『研修施設』から数百m離れた、さらに人目につかない小さな原っぱで、水戸部(みとべ)が現われた若者3人を順々に見やる。彼の眼鏡には夏の終わりの日差しが光り、その瞳から心情を(うかが)うことはできなかった。  水戸部さん、と木岡(きおか)は改めて言った。 「そのロープ、スイッチですよね?」 「もしくはトリガー」  土門(つちかど)がサラリとつけ加えたのを聞かなかったことにして、木岡は続ける。 「俺達……というか、俺、実は知ってるんです。それが岩を落とす装置につながってるって。3日前に、ここにいる火宮(ひのみや)が危うく大ケガしかけたあの岩、ちょうど場所が装置の下だった」 「あなたなの? 水戸部さん……」  木岡の後ろに半分隠れるようにして、小柄な女子大生の火宮は気丈に尋ねた。彼女のよく通る声は微かに震えていた。  岩の一件だけではない。泊まり込みのアルバイトとして、木岡達が水戸部らに『研修施設』に連れて来られて以降、異様なことがいくつも起こった。窓についた血の色をした手の跡、切断された誰かの腕、グラスの落下――。疑念が疑念を呼び、バイトの間でも事件が勃発した。そんな状況のため、10人いたバイトの半分と一部の施設スタッフが、精神的なダメージで抜け殻のようになってしまっている。  名前の知らない虫達が、雑草達が、チチチ、コロコロとBGMを奏でる。水戸部は手にしていたロープの端を地面にそっと下ろすと、困ったような顔をした。 「まいったな。私はただ、今日の11時にロープを引くように言われただけなんだ。そんな恐ろしい仕掛けがあったなんて」 「え、じゃあ――」  
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!