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ザワザワと、心を波立たせる風が吹いた。俗世間から隔離された山奥。ここで起きていた奇妙で邪悪な出来事の数々に、決着がつこうとしていた。
来客を拒むようにポツンと立っている『研修施設』から数百m離れた、さらに人目につかない小さな原っぱで、水戸部が現われた若者3人を順々に見やる。彼の眼鏡には夏の終わりの日差しが光り、その瞳から心情を窺うことはできなかった。
水戸部さん、と木岡は改めて言った。
「そのロープ、スイッチですよね?」
「もしくはトリガー」
土門がサラリとつけ加えたのを聞かなかったことにして、木岡は続ける。
「俺達……というか、俺、実は知ってるんです。それが岩を落とす装置につながってるって。3日前に、ここにいる火宮が危うく大ケガしかけたあの岩、ちょうど場所が装置の下だった」
「あなたなの? 水戸部さん……」
木岡の後ろに半分隠れるようにして、小柄な女子大生の火宮は気丈に尋ねた。彼女のよく通る声は微かに震えていた。
岩の一件だけではない。泊まり込みのアルバイトとして、木岡達が水戸部らに『研修施設』に連れて来られて以降、異様なことがいくつも起こった。窓についた血の色をした手の跡、切断された誰かの腕、グラスの落下――。疑念が疑念を呼び、バイトの間でも事件が勃発した。そんな状況のため、10人いたバイトの半分と一部の施設スタッフが、精神的なダメージで抜け殻のようになってしまっている。
名前の知らない虫達が、雑草達が、チチチ、コロコロとBGMを奏でる。水戸部は手にしていたロープの端を地面にそっと下ろすと、困ったような顔をした。
「まいったな。私はただ、今日の11時にロープを引くように言われただけなんだ。そんな恐ろしい仕掛けがあったなんて」
「え、じゃあ――」
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