龍が運ぶ天使の輪(仮)

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 ***  1時間後、俺達はとある商業施設の屋上にいた。屋上緑化だか何だか知らないが、草木もあってちょっとした憩いの場になっている。  俺はリュックから輪を取り出して、それに買ったばかりのヘリウム風船を結んだ。開いたリュックからひも龍がにゅっと頭を出して、興味津々の様子。今は大人しくしているが、さっきまでは中で落ち着きなくジタバタしていて、他のお客さんの視線が痛かった。 「よし。これなら軽くなって運びやすいな」 「我ながら天才だったわ。でも、本当に2つじゃなくていいのか?」 「2つもつけたら逆に浮きそうで怖い」 「確かに」  ひも龍は俺達の手を借りながら、もう一度輪を構えた。心なしか、さっきよりも頭が上に向いていて、誇らしげに見えた。 「じゃ、元気でな。今度は落とすなよ?」 「がんばれよー」 「リュ!」  コクリと頷いて、ひも龍は目をキラキラさせながら、力強く――いや無理のないそれなりのスピードで高度を上げていった。空を泳ぐウナギみたいに、頭や尾をふにゃふにゃ揺らして。風船が太陽を反射するのが小さく見えたのを最後に、ひも龍は日の長い春の青空に消えてしまった。 「行っちゃったな」 「無事に天使ちゃんに届くといいけど」 「まだ言ってる」  俺は呆れたが、そう言えば、あのひも龍が光る輪を運んでいた理由は分からないままだ。でも、俺の気持ちは今日の空のように晴れ晴れとしていた。 「あ、写真撮っとけばよかった」 「それな」  やっぱり、晴れのち曇り程度かも知れない。  
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加