13.エリーゼのために

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咲苗は、最近指が思うように動かなくなってきたことから、ピアノを弾くことが怖くなることがあったのだが、片野の目標を掲げて努力する姿に感銘を受け、ウィーンに帰ったら、またピアノとしっかり向き合おうと決意をした。指が動かなくなってきているのであれば、指が動くように練習を積み重ねていけばいい、自分に合った弾き方を見つけてみようと考え方を変えることにした。 病気になって、当たり前にできていたことができなくなることに恐れを感じていたが、恐れていては何もできない、リハビリをして、できることを少しずつ増やしていこうと前向きな気持ちになり、自分に自信をつけて拓真と香織に再会しようと考えるとワクワクしてきた。次の目標があると楽しみができる、という片野の言葉や行動がとても心に沁みた瞬間だった。 「片野くん、お疲れ様!とっても演奏素敵だったよー!練習してた姿を見てたから、もう感動しちゃって…」 「咲苗ちゃん、俺よりも泣いちゃダメじゃん!泣き虫なんだからなぁ、もう。『エリーゼのために』が、まさかこの短期間で弾けるようになるなんて思ってなかったから、俺自身も感動してるよ。この曲弾けたらかっこいいだろうなぁって夢を叶えてくれて嬉しかった。咲苗ちゃんが色々指導してくれたおかげだよ。ありがとう!楽しかったよ」 「私こそ、片野くんと練習していくうちに、またピアノと向き合えることができて勉強になったんだ。最近筋肉の力が弱くなってきてるのを感じて思うように弾けなくて苦しくなってたんだけど、純粋に音楽を、気持ちを伝えよう、届けようとしている片野くんの姿を見て、大切なことを忘れていたんだなって分かったんだ。留学先に戻ったら、その気持ちを大事にして、卒業に向けてしっかり頑張るよ!」 「うん!卒業したら、また日本に帰ってくるんだよね?そうしたら、また難しい曲に挑戦して、教えてもらおうかなぁ」 「いいよ!何の曲に挑戦するの?」 「まだ決めてないけど、決まったら教えるよ!あ、でも、明日転院か。もっと話したかったし、教えてもらいたかったなぁ」 そう言ってニッと笑い、握手をする。咲苗の手が片野の大きい柔らかな手に包まれ、温かくなる。
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