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「でも、さなと会わなくてホッとしてる自分もいるんだ」
「なんで?」
「事情を知ったら、気まずくなって嫌われてしまうんじゃないかとか思ったから」
「それはないよ!大丈夫!!」
絵美は、咲苗も同じことを言っていたことを思い出した。お互いに関係を崩したくないという強い気持ちを感じた。
「自信満々に否定したね(笑)あー、あと、片野さんの転院先が…」
俯いて切ない表情になる。
「どこなの?」
「いや、何でもない。それよりも、さなに報告できた?」
「結婚のこと?うん、報告したよ!」
「返事返って来た?」
目が泳いでしまった絵美を見て、拓真は察した。
「やっぱり絵美ちゃんには返信してるんだね。なんなんだよ、あいつ。俺だけ連絡なしか。嫌われてんのかな」
「何言ってんのよ!私は、この病院の榎本先生に用があって、ばったりさなと会ったから報告できたのよ!それに、さなが拓ちゃんを嫌いになるわけないでしょ!名門の大学なんだし、忙しいんだと思うよ。落ち着いたら連絡来るよきっと。ね?」
「そうかな…」
「なんかこの間の同窓会の時と、さなの話をする拓ちゃんのテンションが全然違うから心配しちゃうよ。そりゃあ、香織さんのこともあるからだろうけど。でも、さなのことを信じてない拓ちゃんは、らしくないよ。中学2年生の時のこと覚えてる?」
「ん?中2?何かあったっけ?」
「中2の時、さながまた戻って来たってなって、急遽4人で集まった時あったでしょ?拓ちゃんとさなは、小学校が離れ離れになる最後の日に、また歌おうねって約束してたってお互い思い出して、再会したその日に、さながピアノで、拓ちゃんが歌で『Believe』を演奏してくれたのよ。5年ぶりなのに息もぴったりで。なんかこの2人の絆ってすごいよねって、颯ちゃんと話したんだ。だから、また会えるよあなた達なら。ウィーンから帰って来たら、きっと」
その自信はどこから来るのかというほど、説得力のあるキリッとした目で見つめられ、圧力を感じた。
「そ、そっか。そういうことあったっけな…。ありがとう、なんか本当に会えそうな気がしてきたよ」
「うんうん!それなら良かった!あ、そろそろ病院に戻らないと!榎本先生に聞きたいことあるんだった!そういえば、颯ちゃんの研修も落ち着いたし、今日あたりに連絡できそうみたいだよ。後は颯ちゃんと話してみてね。女性陣相変わらず連絡返って来るの遅いよねーとか愚痴ったらいいよ(笑)」
「ありがとう!連絡してみるよ」
「やっと笑った。怖い顔より笑った顔の方がいい!よく言われてたよね。さなの代わりに言っておくわよ」
「あ!アハハ」
「それじゃーねー!」
大きく手を振って駆けて行く絵美を拓真は笑顔で見送った。
「また、あいつに会えるといいな…」
拓真は清々しい顔で青い空を見上げた。
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