17.奏でる

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演奏会が終わってもなお、演奏する人たちの息遣いが聞こえる臨場感とか、生の音の立体感とか、身体全体に振動が伝わる重厚なハーモニーとかの興奮が冷め止まず、席から立ち上がるまで時間がかかった。余韻に浸りながらホールから出ると、いい具合にお腹が空いてきた。 コンサートホールから近いところにレストランがあり、3品コース料理が堪能できる。五つ星のホテルのディナーなのに、こんなに安くていいのかと思う。味はもちろん美味しいし、日本人でも好きな味だし、上品で見た目の美しさといい、素晴らしい。ウィーンは大学といい、ホテルといい、不思議と日本よりも安く感じる。4年間過ごして思ったのは、お金に関しても過ごしやすい環境なのかもしれない。 「コンサートすごかったねー!音楽の都と言われるウィーンでのコンサートに行けるなんて、夢のような空間だった。さな、誘ってくれてありがとう!」 「いえいえ。新婚旅行がウィーンだって聞いて、いいコンサート無いかなぁって探してたら、まさか自分が試験で弾く曲が演奏されるコンサートがタイミングよくあるなんてびっくりしたよ。一緒に聴けて嬉しかった!」 「でもあんなに難しいピアノを試験で弾くなんてすごいよなぁ。あのコンサートを聴いたら、さなちゃんのピアノも聴いてみたいなって思ったんだけど。絵美もそう思わない?」 「それよ!私も思った。さなのピアノだとどういうピアノ協奏曲になるんだろうね」 「私はあんな上品で美しくシャープにまとめられないよ。リハビリ効果でだいぶ前よりは指が動くようになってきたけど、長い曲になると途中から筋肉がこわばっていって、変な力が入って疲れやすくなっちゃうんだ」 「そっかぁ。今練習中なんでしょ?どんな弾き方なのか、筋肉に負担になる弾き方になってないか見てみたいから、後でさなの演奏聴かせてくれる?」 「わ、分かった!」 咲苗はすっかり忘れていた。絵美は榎本先生から研修を受けていたということを。さっきの絵美は、榎本先生を彷彿とさせる威厳さがあった。絵美のリハビリも榎本先生ほどの厳しさがあるかもしれないと少し怖くなる咲苗であった。
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