ツバキ病

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 翌朝、私にしては珍しく、五時前に目が覚めてしまった。  キャビネットの方へ視線をやる。と次の瞬間、すぐに目を逸らしてしまった。  キャビネットの上には、確かに黒崎さんの頭があった。 「夢じゃなかったんだ……」  思ったことを口にする余裕が出来ていた。  私は簡単に身支度を済ませると、黒崎さんを抱え、彼をボストンバッグに入れた。 「ごめんなさい……すぐ出しますから」  返事などないと勿論分かってはいるものの、そう言わざるを得なかった。  私は足早にアパートを出て、車に乗り込んだ。  忘れているわけではない。黒崎さんの身体は薬局にほったらかしだ。恐らく私が飛び出してすぐに、他の店員が見つけて警察に通報しただろう。顔がないため誰だか判別するのに時間がかかるだろうが、指紋なり持ち物なりを調べれば、すぐに黒崎さんだと分かるだろう。  それに――恐らく防犯カメラには、私が黒崎さんの頭を持ち出す様子が映し出されている。私の所へ警察がやって来るのも時間の問題だ。  別に、捕まろうが何だろうが構わなかった。黒崎さんと一緒にいられる時間に比べれば、なんてことないように思えた。それに、あの時は彼と一緒にいられる喜びに舞い上がっていて、それどころではなかったし。  私は車を発進させた。それでもせめて、彼と一緒にいる時間を少しでも長く過ごしたかった。
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