非情な結婚

1/9
1124人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ

非情な結婚

「なんとおっしゃられましたか?」 私は目の前のその人に小さくため息をつきつつ言葉をかける。 生まれ持ったダークブラウンのきれいな髪は、ゆるくカールさせていて、それを無造作だが計算つくされてセットされてている。髪と同じ、吸い込まれそうなアーモンド色のキリっとした二重の瞳が私を楽しそうに見つめていた。 「だから、結婚しようって」 いつも軽薄な彼は、女性を見ると口説かなければいけない、そんな使命を持って生きているような人間で、久しぶりに再会した私は、また始まった。 そんな思いで穏やかな春の日差しが心地よい庭に目を向けた。 旧財閥である大友グループの屋敷だ。 腕の良い庭師が見事な薔薇園を作っている。大きな噴水が真ん中にあり、その周りには煉瓦で作られた小道はいつみても美しい。 そんなことを思っていたが、やはり聞き間違いではないとわかり、私は優雅に紅茶を飲むその人を改めて見た。 「誰が誰とでしょうか」
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!