1124人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ
非情な結婚
「なんとおっしゃられましたか?」
私は目の前のその人に小さくため息をつきつつ言葉をかける。
生まれ持ったダークブラウンのきれいな髪は、ゆるくカールさせていて、それを無造作だが計算つくされてセットされてている。髪と同じ、吸い込まれそうなアーモンド色のキリっとした二重の瞳が私を楽しそうに見つめていた。
「だから、結婚しようって」
いつも軽薄な彼は、女性を見ると口説かなければいけない、そんな使命を持って生きているような人間で、久しぶりに再会した私は、また始まった。
そんな思いで穏やかな春の日差しが心地よい庭に目を向けた。
旧財閥である大友グループの屋敷だ。
腕の良い庭師が見事な薔薇園を作っている。大きな噴水が真ん中にあり、その周りには煉瓦で作られた小道はいつみても美しい。
そんなことを思っていたが、やはり聞き間違いではないとわかり、私は優雅に紅茶を飲むその人を改めて見た。
「誰が誰とでしょうか」
最初のコメントを投稿しよう!