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そう名前を呼ぶと彼はエレベーターの中なのに、優しく頬を包みキスをする。
激しいものではなく、触れるだけといえばそうだし、拘束もされていないのだから、拒否をしようとするといくらでもできたはずだ。
しかし、私はその甘い熱に身を委ねてしまう。
キュッと彼のシャツを握ると、秋久が私の後頭部を引き寄せキスを少し深くする。
「古都、大切にする」
まるで本当の恋人のようなその甘い言葉に、泣きそうになってしまう。
静かに少しだけ唇が離れ、瞳を覗き込まれる。今すぐにでもまた触れそうな距離。
「キス、まだ嫌?」
嫌じゃない自分が怖くて仕方がない。秋久は私を利用するためだけだとわかっているのに。
でも……。
「やっぱりこれも失敗だな」
自嘲気味に言った秋久の言葉の意味はわからない。でもここで否定するきもちにもなれない。
言葉では塔底言えずに、私は視線をそらして少しだけ首を振る。
「古都?」
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