幽霊と泥棒

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 わたくしは幽霊でございます。  とあるアパートの一室にいさせていただいております。  その部屋の住人はひとりの若い男なのですが、戸締りがいいかげんでよく朝鍵を閉めないまま仕事に出たりしますので、今まで何回か空き巣に入られております。  今日も住人が朝から仕事に出たのですが、また鍵を閉め忘れたらしく、昼過ぎに泥棒が入ってきたのです。  鍵が閉まっていないのに気づくとあっさりと中に入ってきました。そしてあちこちタンスやらテーブルの引き出しやらを開けて物色しておりました。  実はこの部屋の住人、見た目は貧相な男でございますが、親の遺した金なのか、何千万という現金を持っているのです。その金は銀行には預けず、すべて押し入れにある布団と布団の間に隠しているのです。ところが今まで来た泥棒たちはなぜか引き出しの中とかカバンの中を探すばかりで、布団までは探したりしておりませんでした。  今日来た泥棒も気づきそうになかったのでわたくしは教えてやろうと思い、諦めて帰ろうとする泥棒の前に出ました。 「恨めしや〜」  別に見ず知らずの泥棒に恨めしいもなにもないのですが、これは幽霊が出る時のご挨拶のようなものです。  泥棒は突然のことに驚いてひっくり返りました。 「で、でた〜」 「教えてやろう〜」 「いや、黙っててくれ、何にも盗んでないんだ、警察には言わないでくれ、頼む!」  そう言ってガタガタ震えながら部屋を出ていきました。  まったくもって根性のない泥棒でございます。     警察に教えるのではなく、大金のありかをおまえに教えてやろうと言ったのに、うまくいかないものでございます。  いずれにせよ、また泥棒は来ると思いますので、次こそはちゃんと教えられるように頑張りたいと思っております。              THE END
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