5人が本棚に入れています
本棚に追加
捨てられた子供
アカは4歳で森の奥に捨てられた子供だ。本当の名前は誰にもわからない。
アカの生まれた時代は地球変動が起きていて、気候は不順になり、四季のあった国でも、極端に暑い日が長く続いたかと思うと、寒い日が長く続くと言った具合で、作物も育たなくなり、常に食料不足だったので、子供を捨てる親も珍しくはなかった。
アカのいた『玉虫の国』政府もあまりに増えていく捨て子に手を焼いていて、孤児院もぎりぎりの人数を常にオーバーしている状態だった。
地球規模の災害なので、他の国との流通も途絶え、各国それぞれに工夫を凝らして生活するしかなかった。
政府もそれ以上は施設を増やす資金的余裕も、施設で出す食料もぎりぎり最低限でみんなが我慢するしかなかった。
平地で暮らしている人たちは、わずかばかりの農作物と、自分の家で家畜を育て、それを食べたり売ったりして生計を立てていた。しかし、家畜も寒さに弱いものは寒くなると死んでしまうし、そもそもエサとなる食糧がないので、繁殖も難しく、生活は大変だった。
平地に住んでいる親は、大抵孤児院の前に子どもを捨てた。それしか思いつかなかったのだ。
孤児院では必要最低限面倒を見なければ死んでしまいそうな小さな子供だけを残すようになり、8歳を境に子どもたちは自分で食料を調達すべく外の世界に出されていった。
赤ん坊の時に捨てられた子供は少しは政府の補助の栄養ももらえたので、少しは肉も付いて大きくなれた。
だが、生活ぎりぎりまで自宅で親が育てた子供は栄養状態も悪く、ガリガリのまま5歳くらいで孤児院に捨てられ、更に8歳になると孤児院からも追い出されてしまう。どこかの家の手伝いが少しでもできれば多少の食料ももらえたが、何も教わっていない子供はそのまま平地で餓死してしまうことも多かった。
アカが捨てられた森には暑い時期には一応食料となるような昆虫や、木の実などがなっている。
寒い時期にはだいぶ減ってしまった野生の動物を捕獲したり、夏の間に木の実を収穫し、乾燥させて蓄えたりして、しのぐしかなかった。
アカの親も4歳まではなんとかアカを育てていたのだが、それ以上は育てられず、アカを孤児院ではなく、あえて森の奥に捨てた。
多分、次の赤ん坊がおなかにいることが分かり、二人の子供は育てられないと考えたのだろう。生まれたての赤ん坊を捨てるか、先に生まれたアカを捨てるか悩んだに違いない。
アカの家族は平地には住まず、元々森で食料を調達していた。アカが物心つくころから、食べられる木の実や、食べられる昆虫の見分け方や食べ方。森で火事にならないような火の起こし方を教え込んでいた。
そして、食料調達の仕方を教えてみると、アカはなかなかに賢い子で、3歳を過ぎる頃には火も熾せ、なんとか自分で食べるものくらいは調達できるようになっていた。ただ、寒い時期になると、罠をかけて動物をとる以外は、暑い時期に蓄えたものだけで過ごすことになる。
ある日アカの両親は普段通りに食料調達に行くと言い、いつもよりずっと遠い森までアカを連れていき、アカが夢中で食料を探している間にそっと元居た森に帰ってしまった。
何も知らずにいきなり8歳で孤児院を追い出されるよりはきっと生き延びる可能性も高いだろうと、これまでに教え込んできた生き延びる知恵に一縷の望みをかけて身を引きちぎられるような思いでアカを森に置いてきたのだ。赤ん坊の時にあっさりと子供を捨ててしまう親にはない、愛情が、少なからずともあったとアカの為にも思いたい。
両親がいないことに気が付いたアカは最初は必死に探し続けた。泣いてもみた。しかし、空腹には勝てず、食料を調達し、水場を見つけ、3度目の食事を済ませる頃には両親は帰ってこないと悟った。
暑い時期はよかった。毒虫や、毒蛇にさえ気を付けていれば何とか食料を確保して生きながらえていた。毒蛇でさえ、鋭い牙と、毒の袋を避ければ食べられることを知っていたので、獲れそうなときは獲って食べた。しかし、4か月後、寒い季節がやってきた。
暑い季節の間に木の実などは乾燥させて少しは持っていた。
しかし、着るものは夏の間に丈夫な木の皮等を干して、柔らかくするために繊維を叩いて少しでも厚い、着るもの作っておかなければならなかった。
一応両親に教わってはいたのだが、初めて、一人での森の暮らしをしていたアカはそこまで気が回らなく、寒いと気付いた時には服にする木の皮は寒さで全部はがれてしまった後だった。はがれた木の皮はボソボソで使い物にならない。
毎日雪が降る。水には困らないが、とにかく寒いし、乾燥した木の実もそうはもたない。
まだたった4歳だ。なんとか火をつけて寒さをしのいではいたが、すぐに体温を奪われ、ガチガチと歯の根が合わなくなるほど震えが来た。
これは体の最後の抵抗で、体を少しでも動かすことで体温を維持しようとする最終的な局面だ。
そして・・・アカは動かなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!