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拾われた子供
アカは夢を見ていた。
いつもまにか両親がいて、温かい火の横で母親が肉を焼いている。
ハッと目が覚めると、全く知らない穴の中で地面で焚かれている火の横に寝ていた。
「おう、目が覚めたか?」
「手と足の指が2本ほど凍傷で無くなっちまったけど命あっての物種だ。」
「わしが通って運が良かったと思いな。」
しわがれた声の男がアカに話しかける。
アカは返事ができなかった。
アカの目の前に木の実を軟らかく煮た雑炊のようなものが置かれた。
「とりあえず、ゆっくりとそれを食え。」
「急に肉なんて食べると腹が驚くからな。」
アカはうなずくと言われた通りゆっくりと出された雑炊を食べた。
『おいしい。久しぶりのあったかいご飯だ。』
アカは食べ終わるか終わらないかのうちに、またくったりと気を失ってしまった。
次に目が覚めたときには夜だった。
火の横には先程声をかけてくれたと思われる男が横になっている。
もうこのあたりにはめったにいない獣の毛皮をしっかりと着込んでいる。
顔には深いしわが寄り、色も黒い。ずっと森で暮らしている風体の男だった。
アカは自分が寒くないことに気づいた。
身体には夏の間に繊維を叩いて柔らかくした木の皮が、アカのサイズに仕立てられて着せられていた。
そして、やはり毛皮が体に掛けられていた。
男を起こしてはいけないと思い、アカはもう一度眠りについた。
「おい、起きな。朝だぞ。」
男に起こされてアカは目を覚ました。
「名前は何て言うんだ?呼ぶのに不便でいけないからな。」
「わしはな、ローゼンだ。」
アカは自分の本当の名前をこたえようとしたけれど、声が出なかった。
そう、アカは生まれたときから耳は聞こえるのだが、話すことができない子供だったのだ。
両親は不便だったため、アカにずいぶん早くから文字を教えた。
アカは簡単な文字だったら書けるようになっていたが、いつも、両親からは「おい。」
とか、
「おまえ。」
とか呼ばれていたので、自分の名前が分からなかった。
アカは、自分の名前が分からないことと、聞こえるが話せないことを地面に棒で書いた。そして、暑い時期に両親に置き去りにされたことも書いた。
ローゼンは難しい顔をしていたが、
「よし、じゃ、垢だらけのお前の名前はアカにするか。」
「文句は言うなよ。あ、言えないのか。悪い悪い。」
と、言い、大声で笑い飛ばした。
アカもその笑い声を聞き、ニコニコと笑った。理由はなんにせよ、名前を貰えたことも嬉しかった。
両親と別れてから4か月。4歳の子どもがよくぞ生き残っていたものだ。久しぶりの人の声でアカはとてもほっとしていた。
両親といたときには川で身体を洗って貰ったりしていたが、一人ではこの森にある大きな川には危ないので近づかなかったのだ。
川から少し脇に流れる水を飲み水としていたが、体を清潔にするところまでは頭が回らなかった。そのうちに寒い時期が来て川は凍ってしまった。
「まずは体を綺麗にするか。そしたら肉で腹ごしらえだ。」
すぐに追い出されると思っていたアカは驚いた。ローゼンは一緒にいてくれる様子だった。
火で、雪を溶かしてお湯にして、まずはボサボサの埃だらけの髪を洗った。火を使った後の木の灰を石鹸代わりにして木で掘った器にお湯を入れて大きな手でごしごしと洗ってくれた。
その後、着ていたものを全部脱がされ、タオル代わりの繊維を柔らかくした、服と同じ木の皮で体を拭いてくれた。
「あれ、お前女の子か。男だとばっかり思ったが。」
「まぁ、まだ子供だ。しばらくはわしと一緒に暮らす方がいいと思うがアカはどう思う?」
『一緒にいさせてほしい。』
アカは地面に書いた。
「よし。決まりだな。」
風邪をひかないように火のそばでしっかりと体と髪を拭き、温かい服を着させてもらった。
そして、女の子ならと、木の皮を更に叩いて柔らかくし、パンツも作ってくれた。
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