松村柊吾

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書斎をノックして、返事がないけど扉を開けた。 「父さん、下のスーツケース、なに?」 父さんは眼鏡をかけたまま、寝室も兼ねた、いい高級旅館の和洋室というか、窓際の机の上に腕を枕にして、寝ていた。 「あ、ああ。帰ってきたのか.......母さんなにか言ってたか?また女のとこいくとおもっているんだろうな」 「そうでしょ、実際」 淡々と、感情がない声で返す僕も 冷たいかもしれないけど。 「信じられないかもしれないが、もう浮気していた女は全員別れた。母さんだけだ」 「どうやって信じればいい?それを」 多分、僕は今、目が笑ってないまま、笑顔をつくっている。 「会社に来たんだ、浮気相手全員が。1人が興信所つかって、芋づる式にバレて.......おまえの母さんだけだ、俺が浮気してもなにしてもずっと好きでいる。アレは、俺しか好きになれない。犬のような性格だからな」 思わず、手が出そうになるのを、堪えた。 そう思うなら、お母さんを大切にしてくれれば.......こいつが、俺の父親。 「殴らないか.......おまえ、母さんに似てきたな。で?なんだ?なにか用事だろう?」 くるり、と振り返る僕の父親は、浮名を流すだけあり、長身で体格もよく、声もいい。微笑むとたぶん、女はみんな堕ちてしまう。
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