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 喜八(きはち)の家は、住宅街の中でも特に目立っていた。それは単に大きさだけでなく、和風のモダンといった、彼の地域ではあまり見られない外観をしているからでもあった。言うなれば、現代版日本家屋である。  喜八は門扉を抜け、玄関扉の前に立った。木材でできているが、開き戸なのがそのドアの特徴だった。だが彼はそれには触れず、ドアの上を見る。イルミネーションなどで使われる米粒ほどのランプが付けられており、それが赤色に点灯していた。  よし、釣れた――  喜八は二か所あるうちの狭い方の庭に回った。とはいえゴルフの素振りができる程の広さはあり、奥にはプレハブ小屋が建っている。反対側の庭には縁側があり、ここの三倍は広いので、彼はよくそこでシニア仲間とパターゴルフを嗜んでいた。  奥に進むと、常に持ち歩いているキーホルダーの中から最も小さい鍵を選び、小屋のドアを解錠した。中に入り電気を点けると、パソコンやモニターなどの機械が姿を現す。喜八はこの部屋に入る度、本当にここが物置き小屋だったのかと毎度感心させられるのだった。  パソコンとモニターの電源を点け、キャスター付きの椅子に腰を下ろした。たちまちモニターの画面が十二分割されたカメラの映像に切り替わる。それらを映しているのは、喜八の家の中だ。  十二分割されたうちの一つに、知らない男が映っていた。こやつだな、とマウスを動かし映像を拡大する。四十代に見えるその男は、ダイニングチェアを縁側の掃き出し窓に向かって振りかざしていた。そこは住宅路から丸見えのはずだが、男はそれを懸命に繰り返していた。 「無駄というのに」  喜八は買ってきたパックの日本酒をストローで飲み始めた。男が必死になって自分の家から脱出しようとするのが、おかしくてたまらなかった。それを肴に飲む酒が一番美味い。 『くっそう』  カメラに内蔵されたマイクが男の声を捉える。男はくたびれたらしく、その場に座り込んでしまった。 「なんだ、もう終わりか。もっと頑張ればいいのに」  だが男は動こうとしない。その状態が五分ほど続いたので、やがて喜八も飽き、以前娘に勧められて買ったスマートフォンで110番した。  またですか、と呆れる所轄の警官が頭に浮かんだ。
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