ブルーバード

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「美智留さんを私の妻にもらおう。それが条件だ」  沢渡右京は明治時代から続く老舗和菓子店『青柳堂』の店主に冷たく告げた。右京は全国に店舗を構える洋菓子店『ブラオアーフォーゲル(青い鳥)』の専務である。二十八歳という若さにして会社の上役の席に就いている。青柳堂の経営難を救う手段としてある条件を提示し、その上で青柳堂の一人娘である美智留を嫁に迎えたいと申し入れた。  ある条件とは、ブラオアーフォーゲルの洋菓子を卸す外資系のホテルに青柳堂の和菓子を採用するという、青柳堂にとっては起死回生できる最大のチャンスだった。  遡ること数か月前、青柳堂の若い職人が店の金を長年に渡って横領しており、発覚すると同時に失踪。ちょうど同じ頃、右京は取引先の外資系ホテルから外国人観光客向けに和菓子を採用したいということで相談を受けていた。その際に青柳堂のピンチが耳に入り、それなら明治時代から続く老舗和菓子店を紹介しようという話になった。  青柳堂にとっても、取引先の外資系ホテルにとっても良い話である。ただし、右京自身の会社はあくまでも青柳堂とホテルを結ぶ仲介役となるので、売上が急増するわけではない。  しかし、右京はそれで良かった。今回の商談の目的は金ではない。  青柳堂の一人娘の美智留を妻にすること。それこそが右京の真の狙いだった。
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