ブルーバード

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 凛太郎は青柳堂の大事な商品を無駄にし、ホテルにも損害を被ったとして、青柳堂をついに解雇となった。美智留がその話を聞いたのは、凛太郎が店を去った数日後のことだった。配達に凛太郎ではなく、見たことのない中年男性が来たことでそれを知った。凛太郎の代わりに雇われた使用人だと聞かされた。 「そんな……」美智留は既に実家を出ており、今は結婚準備に向けて右京の住むマンションで暮らしている。そのせいもあり、凛太郎から別れの言葉を聞くことも叶わなかった。右京の耳にもその話は届いていた。 「良かったじゃないか。彼は店を辞めて自由になれた。君が望んだことだろう」右京は目の前に力なく座る婚約者を見た。 「結果としてはそうかもしれません……。だけど、せめて、凛太郎が自分の意志で辞めると言って店を去ってほしかった。私に何の相談もないなんて……」    凛太郎がホテルで転んだ日、美智留は嫌な予感がするとしきりに言っていた。わざと凛太郎を転ばせたのではないかと。美智留は凛太郎が転ぶ瞬間までは見ていない。  しかし、あの下品な笑いや物言いが仕組まれたことだと思えて仕方ないのだ。きっと、父親が送り込んだのだろう。凛太郎を辞めさせる口実作りに。証拠がないので父を責められることができないのが悔しかった。  凛太郎は今どこにいるのか。美智留には知る手段がない。涙が零れた。逢いたくてももう逢えない。結婚相手の右京の前であろうと関係なかった。逢えない事実が美智留の心を深い悲しみに突き落とした。
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