ブルーバード

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 右京と美智留の結婚式前日。右京は美智留と共に結婚式場のあるホテルへと向かっていた。式が午前中にあるので、支度時間短縮の為に泊まることになっていた。美智留は凛太郎の行方を知らないまま、明日には右京と結婚することになる。右京は美智留に小説は書き終えたのかと聞いた。美智留は書き終えたが出版社への応募はこれからだと首を振った。右京は今夜はその小説を読ませてもらおうかと言い、美智留に小説を持っていくように告げた。美智留は黙って頷いた。凛太郎が青柳堂を解雇されてから痩せたように感じられる。顔には生気もない。何の事情も知らない人から見たら、美智留のことをマリッジブルーと思い、微笑ましい表情で見るだろう。    しかし、美智留に元気がないのはマリッジブルーなんかではない。右京は分かっていた。凛太郎を完全に失った絶望が、美智留から生きる気力を奪っている。素直に泣くことすらできずに、自分の人生にも興味を失っているのか。明日は右京との結婚式であることさえも理解していないのかもしれない。それ程までに美智留の心は壊れていた。    結婚式場のホテルに着いた。右京は美智留を丁寧にエスコートする。美智留は色の無い瞳で歩く。まるで機械のようだ。ホテルのエレベーターに乗る。エレベーターは二人を宿泊部屋のある二十階まで運ぶ。エレベーターの中で会話はなかった。右京は冷たい笑みを浮かべながら過去に想いを巡らせた。
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