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「凛太郎! 凛太郎! 見て!」
「どうしました? 美智留さん」
美智留は紙の束を凛太郎に笑顔で差し出す。凛太郎は家の外掃除に使用していた箒を壁にそっと立て掛けると、美智留から紙の束を受け取った。
「できたんですね、新しいお話が」
「そうなの! 特別に一番に読ませてあげる!」
「恐縮です! 後で休憩の時に読ませていただきます!」凛太郎が恭しく紙の束を持ち上げる。その言葉に美智留は頬を膨らませて拗ねる素振りを見せた。
「……今読んでほしいのに」小声で、けれど凛太郎にはっきりと聞こえるように美智留が呟くと、凛太郎が慌て出す。
「いや、でも庭掃除を終わらせないと旦那様に怒られてしまいますよ……」
「大丈夫よ! お父様なら今の時間はお弟子さんに付きっきりだから当分は来ないわ」
「……まったく、美智留さんには敵わないですねぇ……。じゃあ、少しだけ休憩して読みましょうか」
凛太郎は庭に植えられている木の根元に座り込み、小説を読み始めた。美智留は立ち姿勢のまま、手を後ろに組み凛太郎の隣に身を寄せた。傍から見たら仲睦まじい恋人のようである。
立場上、恋人になれないだけで、きっとこの二人の想いは通じ合っている。右京はすぐにそう思った。
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