ブルーバード

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「破談だよ。大手菓子メーカー専務の沢渡右京の気まぐれにより、この縁談はなかったことにしてほしい。……君は、もう自由に飛べばいい。どこへでも」 「え……、嘘」 「美智留さんが自由……」 「何も心配はいらない。私の会社には和菓子職人を志望する職人もいてね。既に何人か青柳堂への出向願いを出している。跡取りについてはその職人と青柳堂の店主で話してもらえばいいだろう。あのプライドの高い店主のことだ。破談にされた君を無理に連れ戻したりはしないはずだ。もちろん、ホテルとの取引がこれで途絶えることはない。私が専務でいる限り、契約は反故にしない」 「私は、あの店に、戻らなくて……いいのですか?」落ち着きを取り戻したはずの美智留の声が再び震えだす。顔も泣きそうにぐしゃぐしゃになっている。 「好きにすればいい。君の夢は確か、好きな人と結婚して、好きな小説を書くことだったね」右京の問いかけに美智留は答えない。しかし、その沈黙が肯定を意味する。 「君の夢に投資しよう。持ってきた小説を私が五百万で買い取りたい」  文才に長けているものの、美智留の本業は小説家ではない。暇を見つけては執筆に励む程度のものである。さすがにそこまでしてもらうわけにはいかないと美智留は首を横に振った。 「私が買い取りたいと言っている。専務の言うことには従った方がいい。そうだろう、深山君」右京の切れ長の瞳が凛太郎を射抜く。
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