ブルーバード

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「私は、あんな家さえ出られれば何でもいいんです」  美智留は右京に険しい表情のまま言った。あんな家とは青柳堂のことを言っているのだろう。店の横領さえなければ、父親が決めた和菓子職人と結婚し、店を継ぐ運命だったようだ。職人気質の父にとって、件の和菓子職人は美智留の将来の結婚相手でもあった。それが横領などという事件が発覚したせいで、結婚話はもちろん振り出しに。結婚どころか、このままでは店の経営そのものが危うい。そんな折に右京から大口契約の提案である。父親が飛びつくのも無理はない。父は二つ返事で美智留を右京に差し出した。元来そういう性格なのだと、美智留は肩をすくめて説明した。店を存続する為ならどんな手段も厭わない。それが青柳堂の店主だった。 「そうか。それなら双方良い方向に話がまとまったということか。……それなのに、どうして君はそんなに不満そうなんだ?」右京は訊いた。煩わしい実家から解放された美智留がどうして不満そうなのか、本当はその理由を知っている。知っていても美智留の口からその言葉を聞きたかった。 「……別に。あなたには関係のないことです」大人しそうな見た目に反して意地っ張りなのかもしれない。顔をわずかに赤らめただけで理由を右京に教えてくれる気配はない。 「深山凛太郎、に会いたいんだろう」右京は美智留を試すように見た。
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