ブルーバード

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「……」美智留は右京を睨み付けた。美人は怒ると美しさが増す。その怒りが右京の言葉を肯定している。身長百五十五センチ程度の美智留は、百八十センチもある長身の右京を見上げる形となった。 「そんなんじゃないです。あの家さえ出られたら、私は好きなだけ小説を書けるから」 「あぁ、なるほどね。君は幼い頃から創作活動をしていたそうだね。深山凛太郎にも何度も話を読ませていたんだろう。今度は私が凛太郎の代わりにその小説を読んであげよう」美智留が文才に長けているのは右京は既に知っていた。本人も創作活動に打ち込むことを望んでいる。だが、店のことがあるから半ば諦めていた。趣味程度に書いては美智留の想い人である凛太郎に読ませるのが唯一の楽しみとしていたようだ。  深山凛太郎は青柳堂に勤める一人である。しかし、和菓子職人ではなくただの使用人という立場だった。開店前と閉店後の店内の清掃、店の敷地内に実家があり、実家の掃除や食事作りも全て凛太郎が一人で行っていた。真面目が取り柄で、掃除も食事作りも一切手を抜かない。年齢は二十四歳の美智留より一つ年上の二十五歳で、右京とは三つしか離れていないのに、立場は雲泥の差が開いていた。朝から晩まで働き詰めの割に、和菓子職人よりも給料は低い。時給換算にすると高校生のアルバイトとほぼ変わらなかった。そんな悪条件でも凛太郎が店を辞めないのは美智留の為だった。凛太郎は中学卒業と同時に青柳堂に使用人として採用され、以来ずっと店の為に働いてきた。  美智留は穏やかな性格の凛太郎に懐き、凛太郎も最初は美智留を妹のように可愛がった。歳の近い二人がお互いを意識するのには時間は掛からなかった。
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