ブルーバード

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「……そんな折に今回の縁談ときたか。結果的に君は店を継ぐ必要はなくなった。青柳堂の未来は安泰だからな。店主も跡継ぎにこだわらなくなった。それでも残された凛太郎が気にならないのかい?」 「私が青柳堂にいない以上、きっと凛太郎も辞めると思います。彼にはもう自由になってほしい。だから、きっと、これで良かったんです」  想い人を自分の家で生涯雇う為に家業を継ぐ覚悟を決めていた美智留。好きな男の前で、好きでもない男と結婚をさせられるはずだった。それが、今となっては傾いた家業を助ける為に、家業を助けると手を差し伸べてくれた男の妻になろうとしている。残された想い人はいずれ去るだろう。家業を継がなくて済んだのは幸運かもしれないが、いずれにせよ美智留が幸せになれるシナリオは用意されていない。右京は片手で口元を覆って静かに笑った。 「君は籠の中の鳥というわけか。名前が美智留というだけあって『青い鳥』の方が相応しいのか。自分の幸せではなく、他人の幸せの為だけに生きる青い鳥」 「……そうかもしれませんね」始終反抗的な態度だった美智留が初めて右京の意見を肯定した。瞳には諦めの気配が滲んでいた。美智留の世界に色はあるのだろうか。きっと真冬の曇天のような濁った色しか見えていないのかもしれない。右京は美智留の瞳をまっすぐに見つめて言った。 「大丈夫。私は君を必ず幸せにする。約束しよう」
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