ブルーバード

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「凛太郎!」 「美智留さん」  美智留の勤務初日、さっそく配達に来た凛太郎に会うことができた。思いがけない再会に凛太郎は戸惑いを見せたが、美智留から事情を説明すると納得したようで、凛太郎自身も頬にもみるみる赤みが差した。右京自身もたまたまホテル担当者と打ち合わせがあり、カフェの前を通りかかった。美智留はカフェのショーケースの内側に、凛太郎はショーケースの外側に、そして右京は美智留の正面、凛太郎の後ろを通過する形となる。美智留が右京の存在に気付き、口を噤んだ。父と右京の間で決めたこととはいえ、美智留は右京と結婚を約束したのである。その条件をのんだからこそ、今も尚青柳堂は経営を続けていける。そんな右京の前で他の男と親しく話すのは抵抗があるのだろう。 「ごめんなさい、こんなことになってしまって……」美智留が俯き謝った。事情を既に知っている凛太郎も気まずそうに頭を掻いた。 「……美智留さんのせいではありませんから」 「……無理して、父の所にいる必要はないのよ。成り行きとはいえ、私はもうじき嫁ぐのですから、どうか凛太郎も自分の人生を生きて」  美智留がいない青柳堂で、凛太郎が父からどのような仕打ちを受けているかは安易に想像がついた。その証拠に凛太郎の左目の下には痣ができている。父に殴られたのかもしれない。父を問い詰めるのは簡単だが、凛太郎自身としては、自分のことで父娘が揉める姿を見たくないという気持ちも美智留は知っていた。知っていてこそ、何もできないのはつらかった。それならせめて青柳堂を出て自由に生きてほしい。
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