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Prologe.川に立つ女の噂
よう兄さん。祟られ女の噂はもう聞いたかい? 最近もちきりの奴だ。
何だい何だい、まだなのかよ。そんなことじゃぁ流行りに遅れちまう。何たってその女に会えば運気上昇っていうからねぇ。
うん? 何で祟られてるのに運気上昇かって? 知んねぇよ。そら女に聞いとくれ。
そうそう、そんで肝心の話なんだがな。神津南の外れにある小龍川って知ってっかい? そこに闇夜に女が立つそうだ。夜鷹かと思って近づけば、妙な面を被っている。お前は何だと問えば、自分は祟られているというのさぁ。
信じないで鼻で笑ってると女は袖を捲る。その腕にはたくさんの目玉がついていて、一斉にギョロリとこっちを見るんだってよ。おっとろしいねぇ。
うん? 百々目鬼? そんな妖怪がいるのかい?
何。そいつは手に目があるのかい? そりゃあ確かに似てるけれども、どうだかわわからんねぇ。
けどその目に見つめられると運気が上がって博打がうまくいくらしい。
俺ぇ?
会ってねえよ。ってか最近女目当てに人が屯ってるから現れないらしぃんだよね。代わりに人集りを頼って掏摸が出るんだとかで、結構な被害も出てるってねぇ。
兄さんがもしその女に出会ったらどんな奴だか教えてくれよ。じゃぁな!
明治16年の秋はそんな風に深まっていた。
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