3.人の化かし合い

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 秋山の言う通り異相だ。 「あんたが元締めか」 「ええ、その通りです。パトリック・ハーンと申します」 「では賭けを申し入れる。俺が当てればあんたが払え」 「……何故私が?」 「賭場が払えんのじゃ仕方がない。だがこの賭場の上がりはお前さんの懐に入るのだろう? ならあんたが素寒貧になるのが天井だ。何、俺も無茶は言わん。次の一振りにその全てを賭けようじゃぁないか」  そう言って、男は目の前にある大量の、そして全ての木札を無造作に前に押し出した。  積み上がる木札の一部がバラリと崩れ、盆茣蓙(ぼんござ)の内側に転がり落ち、その瞬間、周囲から大歓声があがった。  私の口から溜息が漏れた。  なるほど堂々としたものだ。場馴れしている。そしてこの男は賭場の全てを味方につけている。  この男が賭場潰しと呼ばれる所以がよくわかる。私がこの勝負を受ける義務はない。けれどもここで断れば、この賭場は払いを渋ると信用を失うだろう。壺振りで負ければ倍額の支払い。ざらりと過去を振り返れば、その額は私がこれまでこの日の本で得た資産のほぼ全てにあたる。まさに素寒貧だ。気づけば手のひらにじっとりと汗をかいていた。  改めて場を見渡せば、全ての目が私をジッと見つめていた。全ての瞳は期待や興奮、あるいは狂乱に満ちていた。思わず喉が鳴る。断れば賭場稼業は終わりだ。それはそれで一つの方策なのかもしれない。私の本業は賭場主ではないからな。けれども、賭場の経営は私の趣味にとても役に立つのだ。  場を注意深く眺め、そこに負の感情がない事を確認する。ただ、燃え上がっているだけだ。  ゲームは公正でなければならない。私はこれでも真っ当な賭場を開いている。  秋山は一時的に大損してもその後は栄えると言った。 「ようございましょう」  割れるような大歓声が巻き起こる。 「但し、胴元は変えます」 「よかろう」
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