2.小龍のほとり、女の影

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 さっきから眺め渡していても、見物の男は山といるが、怪しげな女なぞは見当たらん。  人が増えたから出ないなどと愚かな噂が流れているが、そんな筈がなかろう。そもそも女は人に見られたくて出ているのだ。やる事と言えば何しろただ、姿を見せて消え去るだけだからな。それなら人の多い今こそ出るべきだ。なのに何故出ない? 或いは出られない? 出られないなら何故だ。それによって  利益か。足元を眺めると、相変わらず不貞腐れた顔が並ぶ。 「おい、お前ら。何でここに来た」  案の定、破落戸(ごろつき)どもは何も答えん。だから懐から出した小刀をチラつかせる。この位ではやはりビビらんな。 「まともな情報を寄越せば逃してやろう」 「はぁ? てめぇ、警察じゃねえのかよ」 「違う。早くしないと警察が帰ってくるぞ?」 「信じられっかよ」 「そうか。残念だ」  あっさり小刀を仕舞った俺に、急に破落戸は慌て出す。 「ちょ、ちょっと待て。本気なのか?」 「本気だが時間はないぞ。話すなら話せ」 「ええい何を話せばいいんだよ。十日位前に秋山(あきやま)親分にここが儲かるって聞いたんだ」  一人が話し始めると後は早い。  秋山とは最近この辺の掏児の元締めらしい。賭場で祟られ女の噂を聞き、人が集まると考えたそうだ。そういう目端は効くらしい。この辺で賭場と言えば川向こうのハーン邸か。昔は賭場といえば武家屋敷か寺に決まっていたが、今は外国人も治外法権なものだから、場が立つ(賭場が開かれる)と聞く。 「早く解いてくれよ。帰ってきちまう」 「仕方ねぇ。誰にもいうな」 「ありがてぇ」  縄を切ってやると入れ替えほどに、倉橋が三人の警官をつれて戻ってきて、俺をジト目で咎めるように眺めた。 「刃物を隠し持ってたようで逃げられた」 「隠し? 俺は体を改め(身体検査をし)たんですけど?」 「隠してたんだから仕様ないだろ。新しいのを捕まえりゃいいじゃねえか。ほらアイツとアイツ」 「何でわかるんですかもう!」
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