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さっきから眺め渡していても、見物の男は山といるが、怪しげな女なぞは見当たらん。
人が増えたから出ないなどと愚かな噂が流れているが、そんな筈がなかろう。そもそも女は人に見られたくて出ているのだ。やる事と言えば何しろただ、姿を見せて消え去るだけだからな。それなら人の多い今こそ出るべきだ。なのに何故出ない? 或いは出られない? 出られないなら何故だ。それによって誰が利益を得る?
利益か。足元を眺めると、相変わらず不貞腐れた顔が並ぶ。
「おい、お前ら。何でここに来た」
案の定、破落戸どもは何も答えん。だから懐から出した小刀をチラつかせる。この位ではやはりビビらんな。
「まともな情報を寄越せば逃してやろう」
「はぁ? てめぇ、警察じゃねえのかよ」
「違う。早くしないと警察が帰ってくるぞ?」
「信じられっかよ」
「そうか。残念だ」
あっさり小刀を仕舞った俺に、急に破落戸は慌て出す。
「ちょ、ちょっと待て。本気なのか?」
「本気だが時間はないぞ。話すなら話せ」
「ええい何を話せばいいんだよ。十日位前に秋山親分にここが儲かるって聞いたんだ」
一人が話し始めると後は早い。
秋山とは最近この辺の掏児の元締めらしい。賭場で祟られ女の噂を聞き、人が集まると考えたそうだ。そういう目端は効くらしい。この辺で賭場と言えば川向こうのハーン邸か。昔は賭場といえば武家屋敷か寺に決まっていたが、今は外国人も治外法権なものだから、場が立つと聞く。
「早く解いてくれよ。帰ってきちまう」
「仕方ねぇ。誰にもいうな」
「ありがてぇ」
縄を切ってやると入れ替えほどに、倉橋が三人の警官をつれて戻ってきて、俺をジト目で咎めるように眺めた。
「刃物を隠し持ってたようで逃げられた」
「隠し? 俺は体を改めたんですけど?」
「隠してたんだから仕様ないだろ。新しいのを捕まえりゃいいじゃねえか。ほらアイツとアイツ」
「何でわかるんですかもう!」
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