師への答え。

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 頭を使い、策を凝らし、軍の強化も図らねば国の大将を出せる訳は無く。守ろうとする者より奪うという事は、其れ程に困難な事なのだ。数を揃えただけの、愚劣な軍勢は国軍には山猿でしかないと言う事だと。  金属音、怒声が響く中、遂にお山の大将も追い詰められる。 「――ぐぅ……!」  呆気なく地へへばり付く其の身へ、一蹴が口角を上げて。 「はい、任務完了っと。悪い、加減って苦手なんだよ。足はちょっと不便になるかもなぁ……けど、帝なんか俺より冷てぇ奴だから何するかなぁ……まぁ、気を確り持って刑に挑めや」  妙に楽しげな一蹴の言葉へ、長の男は恐怖に青ざめ脱力。鐐の真似すら出来なかったお山の大将は、一蹴により『口だけは聞ける』状態にて、他命乞いに投降した者も捕らえ、任務完了となったのだった。  今回の任務に際して、治安維持第拾貳番内での一蹴への見方に変化があった。実践で目の当たりにした一蹴の力量は、上官として認めざるを得ないものと皆が納得したのだ。そして、其の話題から若き隊員の憧憬も注がれる存在へと。  名実共に、治安維持部隊への入隊を果たした一蹴の快進撃。其れは、更に。 「――治安維持部隊、特別指導員長就任、御目出とう御座います。早々の出世、御見事ですな。一蹴殿」  称える錦へ、一蹴は気恥ずかしいのか喜びより戸惑いが見られる。実は此の役職は、新しく加えられたもの。一蹴の能力に目を付けた一刀が、治安維持部隊強化の為に、中でも見込みある隊員を一蹴に指導させるのだ。其れは、高い洞察力と分析力。相手の癖、弱点を正確に見極める事の出来る一蹴ならば、何を強化すべきか、又何で埋めるべきかの的確な指導が可能だと。  しかし、当の一蹴は軽く頭をかきながら。 「あぁ、と……有り難う御座います。って、格が上がったのか下がったのか、分かんねぇんすけどね……まぁ、給金は上がったらしいって処で」  己の才に意識を向けない一蹴は、此の状況に今一つ喜びが薄い様子で。錦の隣で、其れを耳にした一刀は少々不愉快。此れこそ破格の特別待遇ではないか、全く以て贅沢極まりない弟弟子だと。
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