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彼らは二人組の強盗だ。
今日も人気のない、そこそこ金を持っていそうな老人の家を見つけその家に忍び込んでいたのだ。
しかし、運悪いことに彼らはその家の家主に遭遇してしまった。
「アンタら何者かね?警察呼ぶとよ?」
家主の老人は強盗2人を見つけるなり、すぐさま警察に通報しようとした。
このままでは捕まる。そう考えた時には、男の体が先に動いていた。
「なんね。なにしとんね」
男は老人の身体を押さえつけ、口に手を当てて黙らせようとした。
老人も必死に抵抗する。「うぅー、うぅー」と呻き声を上げながら男の身体を振り解こうとした。
けれど、年寄りが若者に敵うはずもなく、ジタバタともがく事しかできない。
終止符を打ったのは、友人だった。
手近にあった灰皿で老人の頭を殴ったのだ。
……別に殺すつもりがあった訳ではない。
単純に気絶させて口封じをするつもりだった。
けれど老人は呆気なく死んでしまった。
それから2人は、金目の物をある程度物色したが、タンスからは現金が少しばかりと、ろくに貯金されていない通帳を見つけただけで、しょぼくれた。
そして、この後の身の振り方を考える為、老人の家でくつろぎ、冷凍庫に入っていたアイスを食べながら、さっきまでのアノ話をしていたのだ。
「で、結局俺らのこの状況と、お前の程度の話?ってのは、何が関係あるんだよ。」
「お前、1人殺したら人殺しって言葉知ってるか?」
「あァ? そんなもん当たり前だろ。1人殺そうが2人殺そうが人殺しじゃねーか。現に俺は今しがた人殺しになっちまったよ。孤独な老人一人殺してな。言っとくがお前も共犯だぞ」。
友人は男の話す意図を読み取れず、少し苛立っている。
男はそれを聞いて「お前は何も知らないな。チャップリンだよチャップリン。喜劇王チャップリン」と、得意げに笑ってみせた。
「1人殺せば人殺し、10人殺せば殺人鬼、100人殺せば英雄にって有名な言葉があるんだよ。」
「なんで、100人殺すと英雄なんだ?」
「お前は馬鹿だな。お前には教養がないんだ。そんなんだから強盗なんかやってるんだよ」
「お前もだろ。いいから勿体ぶらずに言えよ。」
「いいか。一人殺すってのは普通の人殺しだ。そんでもってそれが10人ともなれば立派な殺人鬼。マスコミが黙っちゃないだろうな。連日各所で報道されるだろう。そんでもって100人ってのは戦争なんかで敵兵を倒した時の数だ」
友人は男の説明を聞いて尚、男の意図を理解できず「だから?」と間の抜けた顔で聞いた。
「分からねぇ奴だな。いいか、同じ人殺しでも、その時の情勢や倫理なんかで大量虐殺者が英雄になれるって事だよ」
「あぁ、なるほど」友人はやっと男の話を理解した様だった。
そういうと、男は台所を物色し包丁を手に取った。
ステンレスでできたそれは光を反射させ、男の顔を覗かせる。
笑いが止まらないようだった。
「サックと殺して俺たち英雄だ」
そのまま人通りの多い夜の繁華街へ2人は消えた。
その後、聞こえてくるのはおぞましい程の悲鳴と愉快な笑い声が2つ。
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